ライフ

瀬戸内寂聴氏「もうこれ以上の困難は起こらない。そう信じる」

瀬戸内寂聴氏

 東日本大震災で自分の価値観が大きく変わってしまった人も多いだろう。私たちは今をどう生きるべきなのか。作家、僧侶の瀬戸内寂聴氏(89)が説法する。

 * * *
 あのような自然の威力の前で、人間はいかに無力なのでしょう。

 家族は手を握っていても、その手を離さざるを得なかったでしょう。離して生き残った人は、それはつらいでしょう。目の前で家が潰れたり、肉親を失ったりする悲しみや絶望は、体験していない者には決して分かりません。

 それでも―─と私は思うんです。その哀しみや狼狽やつらさも、いつまでも続かない。この世のことはすべて生々流転、移り変わるのです。

 私は今年の正月で数えの90歳ですから、もう卒寿です。90年間生きてきて、いろんな目に遭ってきましたし、いろんなことを見てきました。

 子供の頃から日本が戦争をしていたので、物心付いたときから「非常時」という言葉を耳にタコができるくらい聞かされてきました。私たちにとって、「非常時」が日常でした。

 厳しい時代だったけれど、それでも嫌なことより楽しい思い出の方が記憶に残っているのは、私が子供だったからでしょう。

 大人になってさらに戦争がやってきた。私は中国の北京で終戦を迎えました。恐怖と心細さの中で命からがら日本へ引き揚げると、日本は焼け野原。郷里の徳島も空襲で、母親は防空壕で焼け死んでいました。

 どん底とは、まさにこのことだと思いました。だけど、そのつらさを忘れないで、人間はやっぱり生きていくしかないんです。

「無常」という言葉があります。仏教で「無常」と言えば、人間が死ぬことを意味するでしょ。でも、私はそれだけじゃないと思っています。「無常」とは読んで字の通り、常ならずということ。同じ状態が人生で続くことはあり得ない。

 90年間を生きてきてつくづく思います。人生には良いことも悪いことも連れだってやってくるんですね。

 そして良いことばかりが続くことはなく、同じように悪い状態が永久に続くこともないんです。どん底の場所に落ちても、人は無常を思い、忍辱(辛抱する)を貫き通すしか術がないんです。

 家を失い、肉親が死に、一人ぼっちになった人たちの哀しみは計り知れません。でも、いま以上に不幸になることはあり得ない。もうこれ以上の困難は起こらないのだと、私たちは上向きになるしかないのです。そのことを信じる。どんなに雨が降り続いても、必ずやってくる晴れの日をじっと待つのです。

 必ずそれは終わります。あるとき気付けば、暗い運命にも光は射し始めるんですよ。

取材・構成■稲泉連 撮影■太田真三

※週刊ポスト2011年4月15日号

トピックス

無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
草野刑事を演じた倉田保昭と響刑事役の藤田三保子が当時を振り返る(撮影/横田紋子)
放送50年『Gメン\\\\\\\'75』 「草野刑事」倉田保昭×「響刑事」藤田三保子が特別対談 「俺が来たからもう大丈夫だ」丹波哲郎が演じたビッグな男・黒木警視の安心感
週刊ポスト
月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』主演の中井貴一と小泉今日子
今春最大の話題作『最後から二番目の恋』最終話で見届けたい3つの着地点 “続・続・続編”の可能性は? 
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一
《どうなる“新宿DASH”》「春先から見かけない」「撮影の頻度が激減して…」国分太一の名物コーナーのロケ現場に起きていた“異変”【鉄腕DASHを降板】
NEWSポストセブン
日本のエースとして君臨した“マエケン”こと前田健太投手(本人のインスタグラムより)
《途絶えたSNS更新》前田健太投手、元女子アナ妻が緊急渡米の目的「カラオケやラーメン…日本での生活を満喫」から一転 32枚の大量写真に込められた意味
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
中世史研究者の本郷恵子氏(本人提供)
【「愛子天皇」の誕生を願う有識者が提言】中世史研究者・本郷恵子氏「旧皇族男子の養子案は女性皇族の“使い捨て”につながる」
週刊ポスト
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン