国内

三重の大震災遭遇住民 東北被災者に「もっと自分で考えて」

 1944年12月7日、M7.9の「東南海地震」が発生、紀伊半島東南部に位置する三重県大紀町錦地区は、大津波に呑み込まれて壊滅し、死者は63名に上った。だが、住民たちは津波を避けられる高台ではなく、海辺を復興の場に選び、今も住み続けながら津波に備える様々な知恵を編み出した。

 錦湾のすぐ近くで理髪店を営む吉田定士さん(77)が語る。

「津波の脅威は我々が一番よく知っている。元の場所に住むのだから、津波が来るという覚悟はいつもしているよ。家は流れてもいい、命さえあれば何とかなるという考えで、地震が来たらいつでも逃げられるように、自分たちでルールも作った」

 錦地区では、過去の経験を活かした独自の災害対策が確立されている。

「どの家庭でも、裏手に階段をつけたり、小道を通したりして、自宅から3分以内に山の高台などに作られた計20か所の避難所に辿り着けるようになっています。高台まで距離のある町の中心地には、津波の際に活用する避難塔として『錦タワー』を建設しました」(大紀町防災安全課・久世昌史係長)

 タワーの高さは、最高部の5階部分で海抜20メートル。対象地域人口の2倍以上となる500人が収容可能な避難スペースが設けられ、耐震構造はもちろん万全、流された船の衝突を想定して円筒状に設計されるなど、様々な工夫が施されている。

 住民の防災に対する意識も高い。

 町を歩くと、「海抜8.5M 津波の用心」といった、海抜表示があらゆる場所に記載されている。こうして普段から津波を意識させているほか、毎年12月7日の東南海地震の発生日には町全体で避難訓練が行なわれる。

 地震発生時には、気象庁の地震速報情報より早く、避難サイレンが鳴る仕組みも作られた。

 前出の久世係長はこう語る。

「担当の職員を常駐させ、震度4以上の地震が20秒続いた場合、無条件でサイレンのスイッチを押し、避難命令を出します」

 例えば、2004年9月5日、紀伊半島沖でM7.3の地震が発生した際にもサイレンが鳴り、深夜にもかかわらず住民の8割が、高齢者はほぼ100%が避難した。

 住民の心にあるのは、「自分の命は自分で守る」という意識だ。

「この町では、お互いが他人のことは放っておいてでも自己責任で逃げる。薄情に聞こえるかもしれませんが、昔の津波では家族を捜して亡くなった方も多かったんです。体験しているからこそわかることです」(港近くの食堂の女主人)

 常に津波というリスクと隣り合わせの「低地での復興」という道を選んだからこそ生まれた心構えだろう。 前出の吉田さんが語っていた言葉が印象的だった。

「当時は小学生すら総出で潰れた家の瓦を運んだり、死体を探して掘り起こした。終戦前後の混乱期だから、救援物資もないし、ボランティアもいない。皆自分たちでやったからこそ、元の場所にこうやって町を復興させることができたんです。

 私には、国のいう防災都市計画は絵に描いた餅に見える。東北の被災地の人たちも気の毒ですが、もっと自分たちで考え、身体を使って行動するしかない。人や国に助けを求めるだけでは、本当の復興はできないのではないでしょうか」

※週刊ポスト2011年5月27日号

関連記事

トピックス

候補者選びの段階から大揉めに揉めた富山1区
【衆院選注目選挙区ルポ・富山1区】“自民分裂”の候補者選考で選ばれた小野田紀美氏の補佐官・中田宏氏 雪のなかで語った選挙への手応え
NEWSポストセブン
中村獅童と竹内結子さん(時事通信フォト)
《一日として忘れたことはありません》中村獅童、歌舞伎役者にならなかった「竹内結子さんとの愛息」への想い【博多座で親子共演】
NEWSポストセブン
物流での人手不足、とくにドライバー不足は深刻(写真提供/イメージマート)
《相次ぐ外国人ドライバーによる悪質交通事故》母国の交通ルールやマナーの感覚が一因か 外国人への「交通教育」の見直しを求める声
NEWSポストセブン
週末にA子さんのマンションに通う垂秀夫氏
垂秀夫・前駐中国大使が中国出身女性と“二重生活”疑惑 女性は「ただの友達」と説明も、子供を含む3ショット写真が本物であることは否定せず 現役外交官時代からの関係か
週刊ポスト
鵠祥堂の代表・齋藤受刑者(右)と役員・青木被告が共謀した(Xより)
〈ベットで抱き合って、お尻にキス〉住職を練炭で殺害した青木淳子被告(66)が共謀の会社代表男性(52)との“不倫情事日記”を法廷で読み上げた“意外なワケ”【懲役25年】
NEWSポストセブン
青木淳子被告(66)が日記に綴っていたという齋藤受刑者(52)との夜の情事を語ったのはなぜなのか
《不倫情事日記を法廷で読み上げ》「今日は恥ずかしいです」共謀男性社長(52)との愛人関係をあえて主張した青木淳子被告(66)が見せていた“羞恥の表情”【住職練炭殺人・懲役25年】
NEWSポストセブン
強盗の現場付近を捜査する職員ら(時事通信)
《上野4億円強奪》背後に浮かぶ「金密輸」と「香港のマフィア組織」…裏社会ジャーナリストが明かす「マネーロンダリング」のリアル
週刊ポスト
六代目山口組の司忍組長も流出の被害にあった過去が(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長の誕生日会》かつては「ご祝儀1億円」の時代も…元“極道の妻”が語る代替わりのXデー 
初期のがんを患い仕事をセーブしたこともあったが、いまは克服した黒田氏 (時事通信フォト)
《独占キャッチ》宮内庁新長官が発表していた“異色の小説”の中身 大人の恋愛を描いた作中には凄惨なシーンや男性優位の視点も 
女性セブン
ドイツ女子ボブスレー代表選手のリザ(インスタグラムより)
【ミラノ五輪の裏事情】「遠征費のために…」女子金メダリストが“ポルノ”SNSで資金調達で波紋「同ケース相次ぐ」 
NEWSポストセブン
2025年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん( Instagramより)
渡邊渚さんが綴る「ベッド」の思い出 病床の暗い記憶よりも先に浮かんだ幼少期の「エコロジー桃太郎」の長編創作ストーリー そこにはやわらかく小さいな光が
NEWSポストセブン
大谷の2026年シーズンが始まった(時事通信/Aflo)
《半袖&短パンでエグい二の腕があらわに》大谷翔平が自主トレ初日に見せたムキムキボディー、注目される“真美子さんのアリゾナ入り”…メジャーでは「家族と共にキャンプイン」も一般的
NEWSポストセブン
「中道改革連合」の野田佳彦(右)、斉藤鉄夫両共同代表
《中道・議席半減の衝撃》「公明市議の紹介はNGで…」旧立憲の応援演説で“手抜き協力”が露呈…学会員多い東京24区・萩生田氏に「公明票の6割が流れる」 
NEWSポストセブン