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小池真理子氏「現代人は幸せでなければという強迫観念ある」

 物語は、映画監督の夫の暴力に耐えかねた妻の失踪から始まる――作家の小池真理子さん(58)の最新作『無花果の森』(日本経済新聞出版社、1890円)は、DVで悩む38才の主婦・新谷泉が主人公だ。専業主婦が行く先も決めず、ほとんど身ひとつで逃げる姿は痛々しく、胸が苦しくなるほど締めつけられる。

「この物語を書いたのは東日本大震災の前ですが、そのころはテレビをつけても雑誌を開いても、“一見幸せそうな笑顔”があふれていました。人間は幸せでなければいけない、と錯覚しがちですが、現実には失業や病気、いじめや引きこもり、DVや介護など問題が山積みです。現代人には幸せでなければならないというような強迫観念があり、不幸であることは自分に欠陥があるからと思ってしまいがち。人と人が本音で話すことも少なくなり、苦しんでいることを誰にも相談できずに、自分を追い詰めてしまうことも多いと思います」(小池さん)

 夫の暴力に苦しんでいる泉も、誰にも悩みを打ち明けられずにいる。夫の仕事仲間はうすうす感づいているものの、誰もそのことに触れようとしない。「このままでは殺される!」と家を飛び出した泉は、新幹線や快速を乗り継ぎながら、“大崖”という架空の地方都市に流れ着く。

 駅前の商店街は文字通りのシャッター通りと化して荒廃し、人影は少ない。過疎化した地方都市のやるせない風景が広がる。折しも季節は梅雨の真っ盛りで、湿っぽい雨がまとわりつくように降り続く。夜の情景は、まるで映画『ブレードランナー』や、フィルムノワールのようだ。

「豊かであるといわれた日本ですが、バブル崩壊以降、行きつくところまで行きついてしまった感があります。人の心も街も、荒廃しきっている。泉のような平凡な主婦ですら、いちばん近しい存在であるはずの夫が原因で失踪者にならざるをえない。それも決して特殊なことではなく、誰もが失踪者となる危うさを孕んでいる時代なのです。救いを求めることもできず、ただ逃げるしかない。そんな彼女の行きつくところはこういう過疎化して閉じられたような場所しかないと思いました」(小池さん)

※女性セブン2011年7月7日号

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