ライフ

原発誘致で潤う自治体の住民が「こんなに儲かっていいの?」

 原発の立地には過疎地が選ばれ、“迷惑料”を支払う形で折り合いをつけてきた。過疎化に悩む地方自治体が原発誘致によって地域振興を図ろうとしたこと自体は非難されることではない。だが、安全神話が崩壊し、あらためて原発の巨大なリスクが顕在化した今、原発マネーに依存してしまった自治体の悩みは深い。フリーライターの池田道大氏が報告する。

 * * *
「東京に造れないものを造る。造ってどんどん東京からカネを送らせるんだ」
 
 地元・柏崎刈羽原発についてこう熱弁を振るったのは故・田中角栄氏だった。この言葉が日本の原発の“生きる道”を決めた。
 
 日本の原子力政策の嚆矢は、中曽根康弘議員が原子力関連の予算を初めて提出・成立させた1954年。翌年、原子力基本法が成立し、1960年代には電力会社が相次いで立地を計画する。しかし、1970年代初頭に原発反対の声が高まり、立地計画は頓挫していた。
 
 閉塞状況を打破したのが時の首相・田中氏だった。田中氏は原発立地自治体にカネをばらまく仕掛けを作る。それが1974年に過疎地を振興する名目で成立した「電源三法」(電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法、発電用施設周辺地域整備法の総称)に他ならない。
 
 この法律により、電力会社は販売電力量に応じて1kW時あたり37.5銭の「電源開発促進税」を電気料金に上乗せして国に納付する。その額は標準家庭で年間1400円ほどだ。主に都市部で徴収した税金を特別会計に繰り入れ、交付金として過疎地の原発自治体に還元する仕組みである。
 
 実際、今年度予算案では一般会計、特別会計合わせて4000億円を超える巨額の予算が原子力分野に投下される。
 
 原発を1基造るとどれほど儲かるのか。資源エネルギー庁のモデルケースによると、出力135万kWの原発(建設期間7年)を新設する場合、環境影響評価が始まった翌年度から3年間、年5.2億円の交付金が支払われる。交付金は4年目の着工年度に79.2億円まで一気に跳ね上がり、その後40億~80億円で推移。運転開始までの10年間で約481億円もの莫大なカネが地元に流れこみ、50年間の総計は約1359億円というケタ外れの額になる。さらに、運転開始後は巨額の固定資産税収がプラスされる。
 
 原発立地自治体はこの“打ち出の小槌”を使ってせっせとハコモノ造りに励んだ。
 
 5月6日に菅首相が運転停止を要請した静岡県御前崎市の浜岡原発。旧浜岡町(2004年に御前崎町と合併)に原発誘致が持ち上がったのは1967年だった。当時の財界有力者は「泥田に金の卵をうむ鶴が舞い降りた」と喜び勇んだ。
 
 地元は1975年度以降、2005年度までに231億円もの交付金を使い、豪勢な市立図書館「アスパル」や屋内・屋外利用の市民プール「ぷるる」などの大型施設を建設し続けた。
 
 御前崎市の今年度の一般会計当初予算167億8000万円のうち原発関連の交付金や固定資産税は総額71億2100万円に上る。実に4割以上が原発マネーである。
 
“アメ”はカネだけではない。
 
 原発は雇用を生む。下請けなどを含めると雇用数は地域を凌駕し、福島第一原発と第二原発は地元で1万1000人を雇用した。およそ2世帯からひとりの割合である。
 
 地元優遇は徹底される。たとえば設備の拡張工事や花壇の整備、機材の納入などを地元の業者に発注。お中元など贈答品は地元デパートに大量注文し、商店街や町内会の小さなイベントにも電力会社から“心づけ”が届く。
 
 福島第一原発の地元で長年反対運動を行なってきた石丸小四郎さんがいう。
 
「地元の商店、住民は様々なかたちで電力会社の恩恵にあずかります。私の地元でも東電は地元の金物屋から貴金属を購入し、ガソリンスタンドの給油まで割り振った。原発関係者で潤い『こんなに儲かっていいの』とうそぶく飲み屋も多かった。地元では夜な夜な地主や有力者が接待され、土地譲渡などで貢献した人は東電に優先的に採用されるといわれたものです。こうして地元の隅々まで手を回すことで唯々諾々の“原発城下町”が作られました」
 
 電力会社が大量のカネを投下できるのは、電気料金がかかったコストに一定の報酬を上乗せする「総括原価」方式で決まるからだ。このため、電力会社はそれらの費用をユーザーの払う電気料金に転嫁できるのである。
 
 多くの原発城下町では、原発の恩恵にあずかる人が増えれば増えるほど、「ものいえば唇寒し」の空気が広がり、反対運動は追いやられてきた。

※SAPIO2011年8月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン