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田中角栄密着写真家 一国の総理には“悪人”の迫力必要実感

 このオッサンを撮りたい! 写真集『田中角栄全記録』で故・田中角栄元首相に2年半密着した報道写真家の山本皓一氏は、ファインダーごしに「人間・角栄」を見続けた。震災後の日本復興に対しては「田中角栄のような政治家がいれば…」の声もでてきているが、角栄に影のように同行していたからこそ見知った貴重な秘話を紹介する。

 * * *
 角さんは朝、顔を会わせるといつも「おい、メシ食ったか」「腹減ってないか」と声をかけてくれた。私だけでなく、誰にでもそうだった。

 実はこの呼びかけには深い含意がある。若いころ、彼は貧しくてコメの飯を食べることがままならなかった。毎朝、コメを食べられることが田中角栄の原点にある。だからいつも「メシ食えているか」という言葉が出てくるのだ。

 もちろん、他者を気遣う姿勢を見せることが自身の人気や票につながるとの思いもあっただろう。しかし、その気遣いの大部分は田中角栄という人間の奥底から発せられていたと私は感じる。

 その角さんが、今の被災地の人々を見たら何と言うか?「メシ食えているか」「よく眠れるか」「困ったことがあれば何でも言えよ」きっとそんな言葉が、自然と口をついて出てきただろうと思う。言われたほうも、その言葉に気持ちが軽くなっただろう。

 門閥、学歴、閨閥なく天下を取った姿は、片田舎の豪族出だった織田信長のようだ。信長には鉄砲という武器があった。現代において鉄砲の役割を果たすのは「実弾=カネ」に他ならない。角さんは恵まれない人の痛みがわかることを下地にして、政治のためにカネを使った。

 田中家の床の間には金庫や母の銅像、父親の肖像画にシャガールの絵まで乱雑に置かれていた。高価だから飾るのではなく、「両親と支援者からもらったものは大切」という一途な考えからだった。それほど蓄財には無頓着だった。

 しかし、彼の弟子たちはカネを作るために政治を利用した。沖縄の米軍基地近くに土地を買った小沢一郎しかり、北朝鮮から贈られた金の延べ棒を隠し持っていた金丸信しかりである。そして彼らには、人間的な魅力が決定的に欠けている。

 私が撮った数多くの歴代総理のなかで、角さんの発するエネルギーは格別だった。

 とにかく迫力が違う。総理には決断力や使命感が必要な上、野党やマスコミからは執拗に追及される。そこで揉まれるので、彼らの表情は次第に悪人面になっていく。一国の総理には、悪人の迫力が必要なのである。角さんは昨今の総理にはない表情や雰囲気を備えていた。最近の政治家は、あまりに物足りない。

 田中角栄は金権問題で大悪人となった。すべてを擁護するつもりはないが、人望もなく、迫力もない“小粒”だらけになってしまった政界を見るにつけ、角栄待望論が出るのは当然と言うしかない。

※SAPIO2011年9月14日号

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