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鉢呂辞任で話題の「オフレコ」 真の意を東京新聞論説委解説

 鉢呂吉雄前経済産業相の辞任の原因には記者との「オフレコ取材」が破られたことにあると報じられたが、「オフレコ」とは一体どんなものなのか。長谷川幸洋氏(東京新聞・中日新聞論説副主幹)が解説する。

 * * *
 新聞やテレビの取材現場でオフレコは頻繁にある。「オフ・ザ・レコード」。文字通りなら、記録に残さないという記者と取材源との取り決めであり、したがって話の中身も公表しないのが一応の建前だ。

 ところが鉢呂吉雄前経済産業相の辞任は本来、公表されないはずの記者とのオフレコ懇談が報じられたことが一つのきっかけになった。

 鉢呂は9月9日午前の会見で福島第一原発周辺を「死の町」と呼んで批判を浴びた。そこへフジテレビが同日夕方のニュースで「放射能を分けてやるよ、などと話している姿が目撃されている」と第一報を流すと、通信や新聞各社が一斉に追随し、辞任への流れが決定的になった。

 議員宿舎エントランスで記者たちが鉢呂を囲んだ記者懇談で飛び出した発言について、鉢呂はオフレコ懇談だったと認識しているが、フジは「オープンスペースでの囲み取材」との認識であり「取材現場にいた記者」が取材し報道したという立場である。

 どういう場合がオフレコあるいはオフレコでないかという区別は、実は厳密にあるわけではない。一般に複数の記者がいたとしても、記者側と取材源が「これはオフレコで」と全員が合意すれば成立すると考えられている。

 だが、私は違う。私は取材源と1対1で会って、かつ私と取材源が納得して合意した場合に成立すると考えている。それはなぜか。

 官僚や政治家は「ここはオフレコで」と勝手に宣言してしまう場合が非常に多い。これを安易に受け入れてしまうと、なにが起きるか。とくに官僚は自分の正体を明かさず都合のいい解説を記者に喋り、それを匿名の形で書かせて世間に広めるという手法を意図的にとっている。

 たとえば「○○政策については、××の問題点があり難航しそうだ」といった解説が典型的だ。「△△(政治家)は政策通として知られている」という場合は官僚に都合のいい政治家を誉めそやしているにすぎない。

 そうやってオフレコを受け入れて官僚となれ合ってしまうと、いつの間にか官僚の覚えめでたい「ポチ記者」になってしまうのがオチだ。

 私自身は資源エネルギー庁長官のオフレコ内容(※)を署名コラムで相手の実名入りで暴露した経験がある。このときは出席していた論説委員や経済部長、官僚が30人前後に上っていた。これでは公開会見と変わりない。

 そもそも長官は初めから自分の身を隠して、枝野幸男官房長官(当時)の悪口を広めるのが狙いだった。東京電力の賠償問題に絡んで、株主や銀行に厳しい態度で臨もうとした枝野が邪魔になったからだ。役所にとって面倒な政治家の悪口をオフレコで広めるのは官僚の常套手段である。

 気になるのは、マスコミと政治家が事態の進展を予測して着地点を目指す動きが普通になってきた点だ。

 今回は「いずれ国会が騒ぐ」と双方が予想し「辞任しなくては収まらない」と早々と結論を出してしまった。マスコミの批判スパイラルを恐れるあまり、現実の政治が動いてしまったのだ。そんな単純な世界でいいのか。

 ついでに、もう一言。

 相手がオフレコと宣言していても報じるか報じないか、究極的には記者の判断にかかっている。「原発はもうメルトダウンしている」とか「戦争はもう負けている」と聞いて「オフレコで」と要求されたら、書かないのか。私は書く。

※今年5月、枝野官房長官(当時)が原発事故の賠償枠組みについて「(銀行の債権放棄がなければ)国民の理解は到底得られない」と述べたことを受け、当時の資源エネルギー庁長官が懇談会で「これはオフレコですが」と前置きし「いまさらそんなことをいうなら、これまでの私たちの苦労は何だったのか」と発言した。

※週刊ポスト2011年10月7日号

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