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ホームレス告白 「私はヤクザの義捐金騙し取りに加担した」

被災した東北の人々のために全国から集まった義捐金は約3000億円に上る。しかし、その一部は暴力団の懐に収まっていた。その行為に加担したあるホームレスが、義捐金騙し取りの仕組みを懺悔告白した。

「私は“東北の被災者”でした」――千葉県内の公園を根城にするAさん(57)は、絞り出すような声でこう語り始めた。

発端は震災から1週間ほど過ぎた頃だった。借金を重ねた末に3年ほど前から公園でホームレス生活をしていたAさんは、取り立てを受けていた暴力団員から、「借金を減らしてやるから、宮城県のB市に行ってこい」と命令されたという。

「ヤクザが用意したバスには私と同じような中年のホームレスが8人乗っていました。到着すると、バスに同乗していた男に指示されるまま避難所に転がり込んだのです。彼は地元ではかなりの顔利きのようで、私は“千葉からB市に働きに来ていた出稼ぎ労働者で、彼の借家で生活していた”という設定だと説明され、数日後には罹災証明も交付されました」

支給される食事は冷めた弁当や菓子パンばかりとはいえ、ホームレスのAさんにとって避難所生活は全く苦ではなかった。

「雨風をしのげるだけで嬉しかった。最初は周囲から“見慣れない奴がいるぞ”という目で見られましたが、瓦礫撤去などを手伝っているうちに、避難所のお年寄りから頼られる存在になっていました」

が、そんな“避難生活”は2か月ほどで終わる。顔役の男から、「市の窓口に行って義捐金の申請をしてこい」と指示されたのだ。

「住民票もないのに認められるのか半信半疑でしたが、驚くほど簡単に交付された。罹災証明があれば機械的に認められるようでした。私に避難所生活をさせたのは、周囲から怪しまれないようにするためだったのでしょう」

B市の社会福祉課も、「当市で生活をしていた証明があれば、住民票がなくても認めている。その後は市外、県外に避難しても義捐金は振り込まれます」と説明する。どさくさの中では“偽被災者”を調べる余裕がないのはやむを得ないところだろう。

Aさんに下りたのは「大規模半壊世帯」の認定。B市の規定では数回に分けて75万円を受け取ることができる。

申請が認められるや、Aさんは千葉行きのバスに乗せられた。

「2か月前にB市に向かった時のホームレスも何人か一緒でした。おそらく、私と同じ役割を担っていたのでしょう」

Aさんに東北行きを持ちかけた暴力団員が所属するのは、ある広域指定暴力団だった。その団体関係者はこう明かした。

「こうした義捐金の騙し取りは阪神大震災や北海道南西沖地震の時にヤクザが編み出した方法で、配分は暴力団が半分、残りを顔役や“出し子”のホームレスが分け合う。申請する口座は暴力団が管理し、それぞれの取り分を口座に振り込むというパターンが多い」

すでに50数万円がB市から振り込まれているAさんの場合、暴力団の取り分は25万円。ホームレスを8人手配していたなら、それだけで200万円となる。

「我々の系列だけで、東北の各地に20~30グループが派遣されている。バスを手配するだけで5000万円近いカネが転がり込んでくるのだから、これほど楽なシノギはない」(同前)

Aさんは自身の行為をこう振り返った。

「避難所で自分に優しく接してくれた被災者の皆さんのことを考えると、申し訳ない気持ちで一杯です。ホームレス仲間にはそのまま東北に残って、瓦礫の撤去や建設作業の日雇い労働者として働いている者もいます。私もできることなら、今度は本当に被災者の方々のために働きたい」

※週刊ポスト2011年11月4日号

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