国内

大前研一氏 過去の「通信が放送飲み込む」論が事実になった

テレビ業界はこれから各キー局の中間発表を迎えるが、今のところほとんどの社が通期では前年同様に減収や減益を予想している。しかし、大前研一氏は、「テレビ局の試練はこれからが本番」と指摘。

アメリカでは、視聴者が見たい番組だけを配信するオンラインDVDレンタル会社の「ネットフリックス」が成功を収めており、「現在のTV局のビジネスモデルは崩壊する」と述べている。

* * *
かつて楽天の三木谷浩史・会長兼社長やライブドアのホリエモン(堀江貴文元社長)らが「通信と放送の融合」を唱えた時、私は「通信と放送は融合するのではなく、通信が放送を飲み込む」と主張したが、その通りの状況になっているのだ。

ところが、総務省とテレビ局はそういう本質的な変化に気づかず、著作権保護を建前に実際は受信料の徴収や有料放送の課金を目的とした「B-CAS」という仕掛けで、視聴者を縛ろうとしている。これは完全に時代錯誤である。

日本版ネットフリックスが登場しても、テレビ局側が番組を供給しなければ普及しないのではないか、と訝る向きもあるだろう。だが、すでにアメリカではテレビ局とネットフリックスの力関係が逆転し、テレビ局はネットフリックスに番組を供給しなければ生き残ることが難しくなっている。

アップルのiTunes Storeに頑強に抵抗していたソニー・ミュージックエンタテインメントなどのレコード会社が、結局はコンテンツを供給せざるを得なくなったのと同様だ。

そうなると、テレビ局の番組は買い叩かれ、おそらく5本いくら、10本いくらのバーゲンセールになるだろう。とくに苦境に追い込まれるのはローカル局だ。ローカル局が制作した番組を見たい人は、よほどの作品でない限り、その都道府県外や海外に住んでいる地元出身者だけ、ということになってしまうだろう。

この“アンバンドル革命”により、パッケージ化という従来のビジネスモデルが崩壊して存在意義がなくなったテレビ局に、新しいビジネスモデルはない。折悪しくも地デジが始まった。デジタルになったことは、切り刻んでバラ売りをするのに好都合だ。

わかりやすくいえばNHKの受信料を一人だけが払い、すべての番組をサーバーに入れてYouTube経由で提供する、ということがいとも簡単にできてしまうのである。

一方、制作者の側でも有能なプロデューサーは独立し、日本版ネットフリックスに直接コンテンツを提供することで稼ぐことができる。番組作りを外部の制作会社にカンパケ(完全パッケージ)で依存していたテレビ局自体は、通販や企業スポンサーのタイアップ番組などで糊口をしのぐのがせいぜいとなる。

テレビ局が生き残る方法は、自分が世界中の映像を集めて届ける、つまりはネットフリックス型のプラットフォームになるしかないだろう。

※週刊ポスト2011年11月4日号

関連記事

トピックス

小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
新体操フェアリージャパンのパワハラ問題 日本体操協会「第三者機関による評価報告」が“非公表”の不可解 スポーツ庁も「一般論として外部への公表をするよう示してきた」と指摘
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
代理人・バレロ氏(右)には大谷翔平も信頼を寄せている(時事通信フォト)
大谷翔平が巻き込まれた「豪華ハワイ別荘」訴訟トラブル ビッグビジネスに走る代理人・バレロ氏の“魂胆”と大谷が“絶大なる信頼”を置く理由
週刊ポスト
お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
NEWSポストセブン