国内

政治に手を出した渡辺恒雄氏に記者名乗る資格なしと上杉隆氏

清武英利巨人軍GMの解任で“時の人”となった読売新聞グループ本社会長・渡辺恒雄氏。「戦後最大の政治記者」ともいわれる渡辺氏へのインタビュー経験を持つジャーナリストの上杉隆氏は、渡辺氏を「記者クラブの象徴」と位置付け、「記者を名乗る資格はない」と述べている。以下、上杉氏の解説だ。

* * *
今回の件で、私は渡辺氏にも清武氏にも与するつもりはない。清武氏に関していえば、これまで散々、大読売と渡辺氏の影響力を背景に虎の威を借りて権勢をふるってきたのに、というのが率直な感想ではある。だが、そのこととは別に、渡辺恒雄氏の存在はもちろん見過ごすことはできない。彼は、日本の特殊な記者クラブ制度の「象徴」であるからだ。

渡辺氏にはロングインタビューをした経験を含め数回は会っているが、その記憶を遡ると、サービス精神旺盛な好人物という印象が強い。質問を受けて曖昧な点が見つかると、すっと立ち上がって自ら資料にあたり、事実関係を確認して戻ってくる。

かと思えば、バカ話を披露して、こちらを緊張させないように配慮を忘れない。たとえば、初めてプロ野球を観戦したとき、スタンドに入ったファウルボールを見て「スタンドに入ったんだからホームランでいいじゃないか」と怒ったというエピソードを、実に面白おかしく話してくれたものだ。

また渡辺氏は、初めて番記者を務めた鳩山一郎氏の命日には墓参を欠かさないし、同氏の秘書だった石橋義夫氏を横綱審議委員会委員長に据えるなど、義理堅い面もある。子供時代に自分が「お馬さん」になって遊んだ鳩山由紀夫・邦夫兄弟のことは、今でも自分の子供のように考えている。

だが、そうした彼の人格を評価した上でなお、私はこういいたい。新聞記者を名乗るのは、いい加減、やめていただけないか。

2007年に福田康夫首相と小沢一郎民主党代表(ともに当時)の大連立騒動があった際、彼は記者に囲まれて「大連立の仕掛け人か」と問われると、「新聞記者だ」という理由で取材を拒否し、立ち去ってしまった。だが、オブザーバーではなくプレーヤーとして政治に手を出した以上、彼に新聞記者を名乗る資格はない。

権力に接近しすぎると、誰しもそこに手を出したい誘惑に駆られる。だが、普通のジャーナリストはそうした誘惑に対して、強い自制心を持って仕事に臨んでいる。なぜなら、それは全く別種の仕事だからだ。

政治家は選挙によって国民の負託を受け、政治資金規正法や公職選挙法などの制約のなかで政治活動を行なっている。官僚も、国家公務員試験を受け資格を得て、公務を行なっている。それなのに、ただの民間人である政治記者たちが、何の資格もないのにプレーヤーとして政治に手を出し、またそれを許してきた日本が異常なのだ。

メディアと権力の間に緊張関係がなく、“なあなあ”でやってきた記者クラブ制度の弊害。その象徴的存在が、渡辺恒雄氏である。

※週刊ポスト2011年12月2日号

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン