国内

年金事後収納問題 渦中のこっちはたまらないと厚労官僚嘆息

ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる本誌好例企画「覆面官僚座談会」。呼びかけに応えた官僚は財務省中堅官僚のA氏、経産省中堅のB氏、総務省ベテランのC氏、厚生労働省若手のD氏だ。今回は年金をめぐる厚労省の対応について討論する。

* * *
経産B:D君のところはクロアチア大使のセクハラ事件で揺れる外務省以上の混乱ぶりらしいじゃないか。

厚労D:(浮かない表情で)年金局は『週刊ポスト』の発売日からパニックで仕事になりません。こんなに反響が大きいとは思いませんでした。

――前号でDさんが指摘した年金の「時効後収納」問題は編集部にも問い合わせが殺到した。年金は保険料を25年以上支払わないと受給できず、未納分の追加納付は2年で時効になる。ところが、25年にあと数か月分の納付期間が足りずに無年金になるはずの人を、年金事務所の窓口が“温情”で保険料追納を認め、年金を支払っているケースが全国に数百件ある。年金局は小宮山洋子・厚労大臣にそのことを報告できずに、違法は違法だからと、今になって時効後に収納した追加分の保険料を本人に返却し、かわりに受給資格を取り消し、しかもすでに支払った年金を返してもらう方針を固めたというものだった。

総務C:官僚の世界では、大臣のスキャンダルが発覚しても痛痒はないが、大臣に報告していない行政上の重要事項が漏れることが一番の失態になる。ましてや、年金局は長妻昭・元大臣当時は報告していたのに、小宮山大臣には秘密にしていた。榮畑さん(潤・年金局長)がハラキリものだと頭を抱えている。

経産B:例によって情報源探しが激しいらしいね。

厚労D:面白がらないでください。渦中にいるこっちはたまったものではないですよ。

総務C:大丈夫?

厚労D:この問題を知っているのは年金局でもほんの一握り。担当の事業管理課長や局長まで疑われています。他省で知っているのは厚労担当の主計官くらい。

財務A:えッ、ウチも疑われているの?

厚労D:年金局ではただちにこの問題について「新聞記者の取材にも応じるな」という指示が出て、政務3役に聞かれたり、国会で質問された時の想定問答集づくりに取りかかりました。

経産B:D君、そこまでいうとは腹を括ったね。で、国会でどう答えるの?

厚労D:「調査の結果、わが省には官僚座談会に出席した者はおりませんでした」(一同、爆笑)。

経産B:じゃあ『ポスト』に情報を流した犯人は?
(Dはためらっている様子。Bが「ここまできたらいっちゃえよ」と促す)

厚労D:小宮山大臣には、「長妻元大臣サイドから流れたのではないか」と説明するようです。

総務C:情報源探しより重要なのは、この問題にどう対応するかだ。時効後収納の事実は年金局も否定できない。D君が覚悟をもって打ち明けたのも、現在年金を受給している人を無年金に突き落とすような判断は官僚には重すぎる内容だから、批判があっても大臣や政務3役に政治判断で救済してもらいたいという思いからだと思う。その肝心の政治判断はどうなったのか。

厚労D:「知恵を出せ」としかいわない。政務3役は思考停止状態です。

※週刊ポスト2011年12月23日号

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