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女性宮家創設には重大な意義 「男系」限定論者に専門家が反論

皇統の安定的な継承のために、「女性宮家創設」へ踏み出しつつある。野田佳彦首相は12月1日の会見で「緊急性の高い課題」であるとの認識を明確に示した。これは10月5日に、宮内庁の羽毛田信吾長官が首相に、現行の皇室典範のままでは女性皇族方が結婚を機に皇籍を離れ、今後皇族方が減少する懸念を伝えていたことを受けてのものだ。これからの皇室の繁栄のために、政治は何をすべきか。皇位継承問題の本質を高森明勅氏が論ずる。

* * *
遅すぎた感はあるが、女性宮家創設に向けて第一歩を踏み出したことは評価したい。

皇統の安定的な継承をいかに実現するかという議論は、悠仁親王殿下のご誕生以降、滞っていた。悠仁殿下のご誕生は大変喜ばしいことであったし、日本中を明るい気持ちにさせた。しかし、このままでは女性皇族方が今後ご結婚をされて続々と皇室を去っていく。そうなればいずれ悠仁殿下たったお一人で皇室の将来を支えていくことになり、膨大なご公務が集中する。

その意味で、女性宮家を創設し、ご結婚された後も皇族として残られる道を作ることは非常に意義がある。

女性宮家を創設するには皇室典範の改正が必要だが、そもそも、皇室典範は皇室の「家法」だ。本来ならば家長である天皇陛下が、皇族方と信頼できる顧問らにお諮りになった上で、自らお定めになるのが筋だ。

しかし、現行憲法下では、国会の議決に委ねることになっている。政治マターとなっていること自体がおかしいのだが、そう定められている以上、天皇陛下のご意思を反映するため、政治家が適切な行動をせねばならない。

天皇陛下はこのテーマに直接ご発言ができず、非常に制約があるが、我々は陛下の過去のご発言や側近の発言から慎重にご真意を拝察できる。

2009年11月、陛下はご即位20周年に際した記者会見で、記者の質問にあった「皇族方の数が非常に少なくなり、皇位の安定的継承が難しくなる可能性がある」との言葉を受けて、わざわざ「皇位の継承という点で、皇室の現状については、質問のとおりだと思います」と言及された。

さらに、「皇位継承の制度にかかわることについては、国会の議論に委ねるべきであると思いますが、将来の皇室のあり方については、皇太子とそれを支える秋篠宮の考えが尊重されることが重要と思います」と踏み込んだ発言をされている。

また、10年以上にわたり、陛下のおそばに仕えた渡邉允前侍従長も2010年1月にテレビ番組に出演して、私的な意見とことわった上で、「眞子さま、佳子さま、愛子さまが結婚なさっても、一応皇室に残られて、皇族としてその時の天皇をお助けになるという体制を作らないといけないのではないかと思います」と発言している。

09年11月の日経新聞でも「皇統議論は将来の世代に委ね、今は議論しないという前提で女性宮家設立に合意できないものか。女系ありきではなく、様々な可能性が残る」と語っている。

さらに今回、羽毛田長官はわざわざ野田首相に会って将来の「懸念」を表明している。よほどのことがなくては、このような行動はないだろう。渡邉前侍従長や羽毛田長官の言動が陛下のご意思と無縁だと考えるのは無理がある。

【旧宮家系男子の実情はどうなっているのか】

しかし、それでも羽毛田長官らの言動を陛下のご意思とは全く無関係であるかのように論じる者がいる。彼ら女性宮家創設に反対する者の多くは、「男系」限定論者である。

その主張は、旧宮家出身の国民男子が何らかの形で皇籍を取得することによって男系の血統を繋ぐというものだ。一般国民として生まれ、民間で生活していた者が結婚という事情もなく、ある日突然、皇族になったところで、国民から尊敬の念を集められるとは思えない。

女性宮家創設について「男系維持策を優先して探るべきだ」との意見もある。だが、そのためには旧宮家出身の男子を皇族にする以外、方法はないのに、かなり前に取材が試みられて以来、誰もその男子の実情調査すらしてこなかった。

さきごろ『週刊新潮』(12月15日号)が旧宮家出身の男子を片っ端から取材した記事を掲載したが、皇籍取得の意思を示す者は皆無だった。長年にわたりそのような調査すらせず、「女性宮家反対」を唱えるのはあまりに無責任ではないか。

「女性宮家は一代限り」ということを言う者もいるが、それではやがて悠仁殿下とその妻子だけになってしまうことに変わりはない。問題のわずかな先送りにすぎない。女性宮家に通常の宮家と同様に世襲を認めれば、皇室存続の危機は緩和される。

いずれ、女性宮家出身のお子様が皇位を継承すること(女系天皇)を認めるのか、といった議論も必要になってくるだろう。私は、女系天皇を認め、将来、皇位を継承する直系の男子がいない場合には女性天皇も認めるべきだと考えている。

過去にも10代、8人の女帝がいたし、第43代元明天皇から第44代元正天皇への継承は「母から娘」へ皇位が移っており、当時の大宝令の規定に照らしても「女系継承」と言える。このように、日本ではシナや朝鮮のような男系のみによる継承ではなく、男系と女系の両方、つまり双系によって皇統が保たれてきた。歴史上、前例がないわけではないのだ。

ただし、皇位継承順位は「直系男子」を優先することが望ましい。これまで125代中、115代が男子であったように、やはり男子であることは従来の伝統であり、また、天皇陛下のお仕事は肉体的にかなりハードだ。

中長期的に考えると、健康面に配慮した場合も男子の方がよいのではないか。もちろん、女子にできないわけではない。直系男子がいない場合は直系女子が継げばよい。

この場合、直系女子が第1子として誕生し、帝王学を学び、ご本人もいずれ天皇になることを自覚しつつ成長されるのに、ある日、男子が誕生した場合、第1子が天皇にならないというケースも出てくる。

だが、女性宮家が認められれば、第1子は結婚後も民間には下らず、天皇に最も近い立場の宮家として、天皇をお支えになる。身につけた帝王学の素養は決して無駄にはならない。

男子にこだわるあまり、直系女子よりも傍系男子を優先させると、どうなるか。本来は親から子、子から孫へという縦の継承が、男子が生まれた家に転々と移る横の継承となってしまう。国民統合の象徴として、不安定な印象を与えるだろう。

皇位継承問題についてはルールを論じるべきで、特定の方のお名前を挙げるべきでない。それをすれば、単なる人気投票となり、「自分たちの判断」を軸に据えることになる。この発想自体、安定的な皇位の継承を崩すことに繋がる。その時々の国民のムードや感情に左右されるからだ。

将来の安定的な皇位継承を可能とするためには女性宮家の創設、皇室典範の改正が必須である。だが、これまでの政治の怠慢により、残された時間は少ない。早急に実現するには、世論の後押しがなくては難しい。

健全な世論が構築されるかどうかは、マスメディアの負う責任が大きいと思う。現在、皇室が直面している危機、いずれ悠仁殿下お一人になってしまう状況がいかに深刻であるか、もっと伝えるべきだ。

※SAPIO2012年1月11・18日号

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