国内

テロに無力の日本はそもそも原発扱う資格ない国と西尾幹二氏

福島第一原発の事故直後から、保守の立場にあって強く脱原発を主張してきたのが評論家の西尾幹二氏である。左派の主張にはない国防の観点から脱原発の必要性を論じる。

* * *
原発の存在自体が日本の国防を脅かす最大の要因になっている。

日本の原発は大量の冷却水を確保する必要から全て海に面しているが、海上から高速船で近づくテロ攻撃に対して全く無力である。韓国の原発は海に向けて機関銃座を据えつけているが、日本ではなんと法律上自衛隊による警備すら認められておらず、普段は民間警備会社に任されている。

しかも、今回の原発事故でテロリストに決定的な弱点を晒してしまった。原子炉そのものを直接破壊しなくても、電源設備を稼働不能に陥らせればよいのである。

日本の原発は空からの攻撃に対しても無防備である。外国から見れば、日本全土に核地雷が埋められているようなものだ。1998年8月31日、北朝鮮は弾道ミサイル・テポドン1号を発射し、青森県上空を通過させて太平洋に落下させたが、これは六ヶ所村にミサイルを落とせることを示威したものと解釈できる。

こうしたテロ攻撃、軍事攻撃を受けずとも、今回のような大事故が起これば、核攻撃を受けたに等しい、あるいはそれに準じた被害が発生する。まさに今回の福島第一原発の事故現場は核戦争の最前線に近かったのである。

関係者にその自覚すらなかったことが最大の問題である。その証拠に、例えば、日本の技術は軍事用に作られていない。日本は世界に冠たるロボット先進国であるはずだが、事故現場で役立ったのはアメリカの軍事用歩行ロボットであり、無人偵察機であり、フランスとアメリカのセシウム除去装置だった。

常に最悪の事態を想定し、準備を整えておくのが軍事的知能というものである。戦後の日本にはこれがない。だから、非常事態に国の中枢が機能しなかった。日本はそもそも原発を扱う資格を欠いた国だったのかもしれない。

私は原発事故以来、こうした問題を何度もメディアで取り上げ、昨年末には『平和主義ではない「脱原発」 現代リスク文明論』(文藝春秋刊)にまとめ、とりわけ保守論壇に対して原発の是非を強く問い掛けてきた。だが、問題のポイントを誤解せずに正面から受け止めて答える声はほとんど皆無である。

「平和利用」という美名に飾られた日本の原発は戦後の「一国平和主義」の象徴であり、その矛盾が最悪の形で露呈したのが今回の事故である。もはやアメリカの「核の傘」は幻想にすぎないことは明らかであり、今後アメリカの軍事予算の削減とともにアメリカの核による抑止力は弱まっていく。

ならば日本は独自に核を持つ必要があるが、45トンものプルトニウム、つまり5000発もの原爆は必要ない。(※注:日本のプルトニウム保有量は60トンを超えないよう歯止めを掛けられているのだが、抽出されたプルトニウムは増え続け、溜まりに溜まって現在45トンを超えている。プルトニウムが8キログラムあれば長崎型原爆が1個作れるので、5000発以上の原爆の材料を保有していることになる)

ほんの数十の核ミサイルとそれを搭載する原子力潜水艦があれば、核武装した膨張国家・中国に対する抑止力になる。そして、その抑止力を持つ自由を獲得するためには脱原発が必要なのである。

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連キーワード

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト