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岩波書店コネ入社  むしろ「当然」で厚労省介入は「不当」の声

 岩波書店の「コネ入社」が話題となり、これに厚労省が調査に乗り出すという。就活シーズン真っ盛りのいま、さまざまな議論が飛び交っているが、いったい正しいのはどちらなのか? ノンフィクション・ライターの神田憲行氏が、自らの「岩波」体験を回想しつつ、考察する。神田氏の視点は、こうだ。

 * * *
 岩波書店の“コネ”入社が騒ぎになっている。入社試験のエントリーに「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」と注釈をつけたからだ。これについて厚生労働省は「コネを条件にした募集方法は聞いたことがない」として、問題が無いか調べるという。

 しかし私が大学を出た25年前でも岩波は「常連筆者の紹介状」をエントリーの条件にしていたように思う。なにを今更だと思うし、年に数人程度しか取らない社員200人の中小企業の採用試験にわざわざ厚労省が乗り出すというのは、岩波のリベラリズムに対する政府の牽制かと勘ぐってしまう。

「就職の機会平等が失われる」という意見があるが、そもそも岩波は高度に専門的な本をメインに出している出版社であり、要求される専門スキルは高く、あらかじめハードルを高く設定するのも理由がある。理系の大学院生が研究室の教授の推薦状をもって企業の面接にいくのに近い。

 それに「社員の紹介」とも書いている。受験したい学生は普通にOB訪問して紹介状を書いてもらえばいいだけだ。他企業のリクルーター式就職と変わらない。OBがいない大学生は編集部に手紙を書くなりしてアプローチすればよい。何のツテもない筆者に手紙を書いてアプローチするのはどんな編集者でも毎月のようにやっている作業である。

 岩波書店から複数の著書を出版しているある著者は、「岩波の編集者は専門知識を持っている印象がある。もしそのような学生が紹介状を希望してきたら、喜んで書いてあげるよ。別に国籍とか学校を問題にしているわけじゃないからね」と話す。

 それでも紹介状を入手出来無ければどうすればいいか?

 別の出版社を受験すればいいだけだ。全然有名ではない大学から大手出版社に入って、ばりばり週刊誌編集者として働いていた女性編集者を知っているし、大学の二部を7年かけて卒業し、文芸編集者としてその出版社の屋台骨となるようなベストセラー作家を捕まえた人も知っている。

 ようは出版社は己のカラーに合わせて取りたい人を取っているだけなのだ。岩波の紹介状も、編集者としての適性を見る試験の一種と考えられなくもない。厚労省がとやかく口を出す問題では無かろう。

 私が25歳で独立していろんな編集者さんにご挨拶の葉書を出したとき、唯一返事をくれたのが当時の「世界」の編集長だった。「私で力になれることがあればなんでも言ってください」という葉書の文字に、海のものとも山のものともわからない、自分の人生がどうなるかわからない若者がどれだけ勇気づけられたか。

「世界」なんて畏れ多く、結局連絡をとることもなくなった。それ以降いちども岩波書店の仕事をしたことはないが、その返信は私の支えになった。その方はいま岩波書店の社長をされている。

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