国内

皇太子が皇位継承権を譲ることがなぜ不可能かを専門家解説

 平成皇室が直面している難題の一つが皇太子と雅子妃を巡る問題だ。雅子妃の適応障害での療養期間は既に8年に及び、「皇太子殿下は皇太子位を秋篠宮殿下に譲るべき」「皇太子もそれを望んでいるのでは」という声まで飛び出している。もちろん、それらを暴論として切って捨てるのは簡単だ。しかし、こうした過激な発想は、皇室はどうあるべきか、という根本的な問いを考え直すきっかけになり得るのかもしれない。皇室ジャーナリストの山下晋司氏がレポートする。

  * * *
 昨年11月から、タレントのデヴィ夫人が自身のホームページで「皇太子位を秋篠宮様に移譲することを求める請願書」への署名運動を実施している(1月末で締め切り)。

 複数のメディアから取材を受けて私もその存在を知るところとなったが、内容としては、「皇太子位を速やかに徳仁殿下から秋篠宮文仁殿下に移譲」「皇太子徳仁殿下は皇位を廃嫡するか、皇太子妃のみを廃妃とする」という請願だ。

 請願は憲法に規定された国民の権利であるから、それ自体を否定すべきではない。問題は、なぜこういった過激な主張が浮上してきたのかという点にある。

「皇太子廃嫡論」まで出る背景にはまず、雅子妃殿下が適応障害という病気にもかかわらず、私的な活動では明るく元気な様子がテレビや週刊誌などで報じられている点が挙げられよう。療養期間が8年に及び、いまだに公務や宮中祭祀のほとんどを欠席されている妃殿下が、愛子内親王殿下の通学や校外学習には元気に付き添っているなどと報じられている。

 同時に、皇太子殿下ご自身の言動が国民に与える印象という問題もある。

 記者会見では内親王殿下の話題が多いであるとか、妃殿下が朝起きられない時は殿下が内親王殿下の付き添いをしている、などの報道により、「公」よりも「私」を重視しておられるように国民の目には映る。

 殿下が妻や子を守るのは、ある意味では非常に大事なことだが、「国民からどう見えるか」ということについて、東宮職を含めて配慮が足りなかったと反省すべき面があるのではないか。

 デヴィ夫人の主張もそのあたりに起因しているわけだが、一方で、皇太子を変更するには法的に非常に厳しい制約がある。

 皇室典範の11条2項には〈親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる〉とある。親王などに皇籍離脱の規定はあるが、「皇太子は除く」と規定されているのだ。

 できるとすれば、皇位継承順位の変更だ。同3条には、〈皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる〉とある。

 これは相当に厳しい規定である。「不治の重患」は、文字通り治る見込みの無い重病。「重大な事故」は、前例が無いので詳しくはわからないが、例えば「行方不明」や「一切の公務を放棄」などの場合は「重大な事故」に該当するものと思われる。少なくとも今の殿下の状況は当てはまらない。私の知る限り、殿下が公務を休まれたのはポリープ手術やインフルエンザの時くらいである。昨年、天皇陛下の入院により、殿下は約1か月にわたり、陛下の国事行為の臨時代行をしっかりと務め、この間ご自身の公務にもあたられた。

 ちなみに、同16条には摂政の規定について書かれているが、その2項には〈天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く〉とある。3条では〈不治の重患〉とあったところが〈重患〉とだけ記されている。つまり、皇太子の変更は摂政を置く規定よりも厳しいものなのだ。

 巷では「皇太子も雅子妃のために皇太子位の返上を望んでいるのでは」などという談議もあるようだが、殿下ご自身がそのような発言をされたことはないし、そもそもここまでに挙げた規定でわかるように、変更は皇室会議の議によりなされるもので、自発的に返上などできない。

 英国では1936年にエドワード8世がいわゆる「王冠を賭けた恋」で退位したという事例があった(英国国王に即位したエドワード8世が、夫のいるアメリカ人女性と恋仲になり、彼女と結婚するために退位。英国国教会では離婚を認めておらず、強い反発があった)。だが、王の自由意思による退位は英国でも前例が無く、規定も無かったため立法が必要とされたし、そもそも英国と日本では歩んできた歴史が異なる。同列に論じられるはずもない。

※SAPIO2012年2月22日号

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト