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「坊さん見ると死を思い出す」被災地で僧侶の慰問拒否の例も

【書評】『宗教と現代がわかる本2012』(渡邊直樹 責任編集/平凡社/1680円)

【評者】嵐山光三郎(作家)

 * * *
 ボランティアの僧侶が被災地の体育館に行ったとき「なかへは入らないでくれ」と断わられた。「宗教勧誘をしないでほしい」と。それに「坊さんを見ると死を思い出してしまう」と言われた。

 被災地の体育館に必要なのは、水と毛布と食料で、僧侶の慰問はいらないという事態は、現代の宗教が無力化していることの証明である。こんなことを言われた坊さんはショックを受けた。

 この話は同書の島薗進、中島岳志対談「脱原発の思想と宗教」に出てくる。信仰の空白は絶望と虚無へむかう。科学の暴走を阻止し、人間の尊厳を守るためには宗教のバックが必要だ、と島薗氏は説く。中島氏は脱原発の思想の根源には宗教の介入が有効だという立場で、ボランティアが「24時間テレビ」化している現状を批判する。

 渡邊直樹責任編集の『宗教と現代がわかる本』は2007年に創刊されて、2012年版で六冊めとなった。日本人のほぼ半数が無宗教化して、葬式以外には寺へ行かなくなったが、毎年、ソフトカバーの年鑑形式で刊行されるこのシリーズは、宗教家がなにを考えているのかがパックされて、わかりやすく、重宝している。

 2012年版には、「イスラームと民主主義」「ドイツ緑の党と脱原発」、「アフリカの宗教対立」、「中国のキリスト教」から「オウム」まで、いまの時代、宗教がどう変化し、時代にかかわっているかを検証していく。

 2011年物故者の「気になる人物の発言集」「宗教がわかる映画・ブックガイド」。宗教文化士、ジャスミン革命、ニコニコ神社とはなにか、といった宗教新語の解説まであり、索引つきという念のいった編集である。

 大震災と原発事故は、被災者のみならず日本人ひとりひとりの課題である。こういう非常時こそ、宗教家、宗教学者の出番で、さあうまいこと導いてくれ。と、私のような無宗教の俗人は、治療薬をさがして、あちらのページこちらのページと読みくらべてしまうこととなった。

※週刊ポスト2012年4月6日号

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