ライフ

集団就職を経て総務大臣になった菅義偉氏の肉声が詰まった本

【書評】『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(菅義偉/文藝春秋/1365円)
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 * * *
 各局のテレビカメラを前に憤慨する著者の表情が、とても印象に残っている。5年前、事務所経費問題が永田町を席巻していた時のことだ。家賃のかからない議員会館を事務所として登録し、領収書のない多額の費用を不正計上していた問題で、複数名の議員が追及されていた。騒動が一段落したところで、突如、当時総務大臣だった著者にも同様の“疑惑”があるとの報道がなされた(じつに安倍晋三内閣の改造人事直前のことだった)。

 急遽、開かれた記者会見で著者は、事務所経費の領収書をすべて公開し、身の潔白を証明してみせた。しかし洪水のような報道の前に、その声はかき消され、それまで確実視されていた改造内閣での官房長官への登用は見送られた。絶妙のタイミングで“ガセ情報”が流され、人事が潰される。典型的な権謀術数が弄されたわけだが、なぜ、その洗礼を受けねばならなかったのか。

 本書を読んで、疑問が氷解した。もしこの人が、内閣の要である官房長官に座れば、それこそ霞が関の官僚たちは省益を失い、天下り利権を失い、国益のためにヘトヘトになるまで働かされただろうからだ。

「自分を育ててくれ、親が生活しているふるさとに、なんらかの形で恩返ししたい」との思いから、誰もが恐れた財務省の“聖域”に切り込み、税の概念に“一大変革”をもたらした。「警察、消防、ごみ処理などの行政サービスを受ける」ため、国が定めた住民税を、個々人の選択で「貢献または応援したい」ふるさとにその一部を納めることができる「ふるさと納税」を創設したのである。

 また返す刀で、大都市と地方の税収格差をも是正。東京に本社を置く企業の「法人二税を地方に分配する方法」を生み出すなど、剛腕ぶりを見せつけた。

 高校卒業後、集団就職で上京し、社会の厳しい現実を肌身で知った人だけに地方と弱者への視線はブレない。そんな政治家の肉声が詰まっている。

※週刊ポスト2012年4月20日号

関連記事

トピックス

65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン