国内

橋下独裁批判をする人は「独裁」を正しく理解しているか疑問

 菅直人前首相は5月下旬の講演で、橋下徹氏の人気について「一過性なのではないか」と語った。まさに“あなたに言われたくない”というところだが、それとは裏腹に、橋下氏への期待は日に日に高まりつつあるように見える。その一方で、橋下氏を批判する議論も、盛り上がっている。橋爪大三郎・東工大大学院教授が分析する。

 * * *
 橋下氏を批判する議論が盛り上がっている。その典型が、「独裁批判」だろう。でも批判する人びとが、「独裁」という言葉を正しく理解して、批判しているかどうかは、はなはだ疑問だ。独裁とは、絶対的な権力者が、独占的に法律の制定権を掌握することをいう。

 アドルフ・ヒトラーが独裁者になったのは、ワイマール共和国の議会が、全権委任法といって、議会の権限を無期限でヒトラーに委任するという議決をしたから。地方自治体は法律の制定権がないし、明確な憲法違反だから、どう転んでも「独裁者」が生まれる気づかいはない。

 国政では、一人の権力者が独占的に法律の制定権を手にしてしまう可能性がある。国民が愚かで、権力者に絶大な人気があった場合は、議会が法律の制定権をその権力者に渡してしまえば、可能となる。

 橋下氏が仮に国政に打って出て、絶大な人気を得たとしても、独裁者のようになる可能性はないだろう。なぜなら彼は、弁護士だからだ。

 弁護士は、「ひとの話を聞き」、「ひとの利益を考え」、それを実行するための「法律的手段を考える」のが仕事で、橋下氏もそれをやってきた。議論をせず独断で法律を定めていくのが独裁だが、ひとの話を聞くのが仕事の弁護士は、いちばんそうした独裁者になりにくい。

 彼はよく、論争相手に怒ってみせるが、それは選挙民に向けられたものではない。「独裁者」は、選挙民に対して怒るもの。この点からも、彼は独裁者とは正反対の体質を持っている。

 論争相手に怒ってみせたり、時に発言が乱暴になったりする理由は、その相手が「沈没感」を共有しておらず、危機感なく悠長に見えるからではないか。

 ギリシャの例で考えてみよう。ギリシャでは、まだ大勢が、緊縮財政に反発している。危機感を持って、財政再建を進める立場のリーダーからしてみれば、「この期に及んで何を考えているんだ。改革が必要なのは明らかだ。実態を見ろ!」と怒鳴りたくもなる。

 橋下氏は、それと同じように、強い危機感を持っている。だから実態をわかっていない評論家がああだこうだと言ってきたら、「実態を見ろ」と強く言いたくもなる。彼の激しい口調は、危機感のあらわれだと言えるだろう。

※SAPIO2012年6月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト