ライフ

ネット右翼 頭の中で仮想敵を作り「反日」と名指しして罵る

 ネット上で発生し、一部は街頭に出て活動する「ウヨク」(ネット右翼=ネトウヨ)たちを、“本家”の「右翼」はどう見ているのか。民族派団体、一水会顧問の鈴木邦男氏は、かつての自分の姿を重ね合わせた上で、彼らは言論の場に出て戦うべきだと提言する。以下、鈴木氏の主張である。

 * * *
 ネット上だけで活動しているネトウヨはもちろん、「主権回復を目指す会」(目指す会)や「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の一人ひとりは、寄る辺のない人間だと思う。だからこそ、「強くなりたい」と願うのだ。しかし、集団で「我々は日本を背負っている」と言った途端に、人間から巨大ロボットに変身したような気がしてしまう。それに加え、「北朝鮮に攻め込め」「韓国、中国を許すな」などと発言すると、その錯覚はさらに強まる。これは怖いことだと思う。

 また、彼らはそうした運動の場に、「日の丸」をたくさん掲げ、自分たちは「日本」だと言う。しかし、外国人に「出て行け」と言う偏狭さが日本と言えるだろうか。

 日本の歴史は、中国や西欧など、あらゆる文明をほとんど無制限に受け容れながら続いてきた。そうした咀嚼力、自由さ、鷹揚さは日本的であり、素晴らしい。だからこそ、「これこそが日本で、それ以外は許さない」という姿勢は“日本的でない”、と私は思う。彼らには、もっと「日の丸」を大事にして欲しい。

 もう一つ、気になることがある。彼らが運動するきっかけの多くがネットであるせいか、敵と戦うことに免疫がないということだ。

 私は、学生運動当時に、対立する左翼学生たちとしょっちゅう激論を交わし、時には殴り合った。それでも、敵にも優秀な人間がいる、いい奴がいるということはお互いに分かっていた。

 しかし、ネット右翼は頭の中で架空の敵を作り、それを「反日」だと名指しして罵る。しかし、本当は、ナマの敵を知らないのではないか。

 私は、言論の場に出ることで“いい敵”と出会う機会を得た。そこでは失敗もしたし、却って馬脚を露わしたこともあったと思う。ただ、敵とたくさん戦うという経験を経たからこそ、自分を冷静に客観視できるようになったのだ。

 例えば、弁護士の遠藤誠氏(故人)のように、思想は100%違っても、尊敬できる敵は何人もいる。反対に、思想は同じだが尊敬できない人間もいる。一体感を原動力に運動している間は気付かないが、やがて時間が経つと、仲間の中にさえ、ろくでもない人がいることを知る時が来る。今後、彼らには、そうした試練が待っているのだと思う。

「自分たちを批判する相手とは会いたくない」「同じ考えの集まりが心地いい」と感じるのは、ネット右翼だけではなく、ネットで知りたい情報だけを読み、気の合う仲間とだけ集まるような、日本社会そのものでもある。

 そして、在特会や目指す会を支えているのは、名前や顔を出さずに拍手喝采を送る大勢の人間だ。ネット右翼たちには、考えの異なる敵と討論することに挑んでほしい。たとえ仲間から追い出されたとしても、言いたいことが言えるかどうか。一人ひとりが強くなるためにはどうしたらいいのか。

 そのためには、集団での単なる弱い者いじめをやめ、ネットという「安全地帯」を飛び出して、国のことを考え、発言する勇気を持ってもらいたい。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン