ライフ

なぜネットでは左翼でなく右翼に極端化するのか 専門家解説

 最近ネット上で存在感を増す“ネット右翼”(ネトウヨ)に共通するのは、新聞、テレビなどマスメディアに対する不信である。彼らの言動には疑問が多くても、その不信感には首肯すべき点もある。ネット社会とジャーナリズムに詳しい日本大学・福田充教授がネトウヨとマスメディアの関係を読み解く。

 * * *
 メディア研究では「ネット世論は過激化しやすい」という考え方が一般的である。フラットなコミュニケーションなので、上下関係や権力関係のないところで自由な議論ができ、かつ匿名性が高く、議論の責任を取る必要性もないからだ。そのような状況でフレーミング(炎上)も発生する。

 またそれは集団極性化現象(グループ・ポラリゼーション)というモデルからも説明できる。ネットでの集団の議論の中で、平等性が高まり、匿名性が高まっていくと、自由に発言しやすい状況ができ、意思決定が極性化(極端化)するという考え方だ。

 では、なぜネットで左翼的方向ではなく右翼の方に極端化するのか。こうした傾向は日本だけでなく中国でも韓国でもネオナチの問題を抱えているドイツでも同様だ。多くの国でナショナリズムと結びついて右翼化するという側面がネットの世界にはある。

 その理由を一括りにして語ることはできないが、日本では戦後民主主義の下でナショナリズムや愛国主義がタブー化され、自由に発言できない時代が長く続いた。さらにマスメディアが左翼的、人権派的に体制化されていたことから、中国や東アジアに対する批判はタブーとなり、「有事」や「危機管理」という言葉も使うことがためらわれた。

 そうした戦後のマスメディアが作り上げてきた閉鎖的な言論空間の中で、言いたいことがあるけど言えないという「抑圧された声」が、インターネットが普及した1995年以降、一気に噴出するようになったと考えられる。

 さらに2000年代に入ってブログやソーシャルメディアの登場により、その動きに拍車がかかった。ネット世論の右傾化は戦後のマスメディアが作り上げた偏り硬直化した言論に対する不信や反動という側面が強い。

 ネット世論がナショナリズムと結びつきやすい理由はそれだけではない。かつては地域社会のコミュニティ(家族、職場、ご近所など)なるものが存在していた。しかし、コミュニティが崩壊するにつれて、家族や職場の人間関係が希薄化。今の若者は帰属(所属)意識が乏しく、自分は何者なのか分からなくなる、いわゆるアイデンティティ・クライシスに陥っている。

 帰属集団を失った現代人は原子化し、「日本」や「日本人」といった大きな物語であるナショナリズムと結びつきやすくなるのだ。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン