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小泉氏と小沢氏「勝負所」知る2人を小池百合子と大下英治語る

 小泉純一郎氏と小沢一郎氏という、ともに並外れた政局勘で政治を大きく動かしてきた政敵同士が、期せずして奇妙な共同歩調を取った。やはり、この2人が動くときが「政局」なのだ。

 小泉氏が次男・進次郎氏を動かして「3党合意を破棄すべき」と乱を起こさせると、すかさず小沢氏が中小野党をまとめて内閣不信任案を提出、自公に踏み絵を迫った。「近いうちに解散」政局の主役は、明らかにこの2人だった。言い換えれば、いまなお彼らにしか日本の政治が動かせないことを示したといえる。

 新進党、自由党で小沢氏と行動をともにした後、自民党の小泉政権下で大臣を務めた経験から、両氏を間近で見てきた小池百合子・衆院議員と、2人に関する多くの著作を持つ作家・大下英治氏が、2人の政局勘について語り合った。

 * * *
大下:今回、小泉さんが動いたのは驚いた。小泉さんは政界引退後、絶対政治的な動きはしないといっていたし、息子の進次郎氏にも、ああしろ、こうしろという指示は全くしてこなかった。それが今回は自ら石原伸晃・幹事長に「野党が解散権を握る政局などめったにない。チャンスなのになぜ動かないのか」とハッパを掛け、党幹部や派閥領袖にも電話しているようだ。

 進次郎氏が谷垣総裁に消費税の「3党合意破棄」を迫る緊急声明を提出したのも、父が初めて息子を動かしたんだと思う。動かないといっていた小泉さんの血が騒いだ。それが興味深い。

小池:血が騒ぐ、まさにそれだと思うんですよ。スイッチが入った。

――小泉氏にスイッチが入ったのは、増税に反対だったからか、それとも民自公路線に反対だからなのか?

大下:どちらの理屈でもないでしょう。何も動かなければ、総選挙はズルズルと来年になり、橋下徹・大阪市長が前面に出てきて自民党に不利な状況になるかもしれない。そうなる前に選挙をしたほうがいい。いまなら民主党を崩せるぞ、と。

小池:まさに政局勘というものですよ。ここが勝負所だと判断した。2005年の郵政解散(※)のときも、小泉さんは参院で法案が否決されたのに、衆院を解散した。一見、無茶だけど、小泉さんからすれば、ここは何があっても戦いだというスイッチが入っていた。

――今回の政局のきっかけは小沢氏の離党だった。

大下:それは間違いない。小泉さんは小沢離党を見て民主党が弱体化したから3党合意を破棄して不信任案で勝負をかけろといい、小沢さんはそれを逆手に取って先に中小野党で不信任案を提出し、自公両党に「あんなに批判していた野田内閣を信任するのか」と踏み絵を迫った。今回の動きで選挙は早まったから、どちらも有効だったんです。

小池:20年前、私が参院議員に初当選したときサファリルックで初登院したんです。「永田町にはタヌキやキツネ、猛獣がいると聞いていたから狩りをしようと思って」といったら、徴罰の対象にされかけた。でも、今から考えると、永田町にタヌキやキツネは多いが、猛獣はそうはいない。その中で小沢さん、小泉さんは間違いなく肉食の猛獣でしょうね(笑い)。

大下:野田総理と谷垣総裁は草食系だね。

小池:自由党の時に広報戦略を担当していたときの面白い資料が出てきたんです。「小沢一郎が永田町で嫌われるわけ」というテレビCMの、私が作った絵コンテ。「先見性がある、リーダーシップがある、決断力がある、正論を言う、実行する、先送りしない。本音を言う、役人に使われない。政策を重視する……」と続くんですが、当時は小沢さんの半面しか知らなかったから、今から考えるといくつか全く違うところもある。

――どこが一番違うと?

小池:政策はあるけれども、それ以上に政局が第一なんじゃないかと。今回の新党でつくづく感じましたね。

大下:「政局優先」という言葉は批判的に使われがちだが、私は政治家が政局を重視するのは間違いではないと思う。毛沢東語録に、「政治は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す政治である」という言葉があるが、自分の政策を実現するためには外野で政策を唱えるのではなく、権力闘争に勝って政権を取らなければならない。政局とは権力闘争で、小泉さんも小沢さんも日本の政治家の中で勝負勘に優れた2人でしょう。

小池:ただ小沢さんは政局を目的化しすぎ。政権を取ったとき、いっていた政策と行動があまりに違う。

大下:マニフェストのガソリン暫定税率廃止を撤回したことでしょう。あの時は小沢さんが決断しなければ予算が組めないところだった。泥をかぶったわけです。

小池:確かに小沢さんは常に悪人になろうとするところがありますね。小沢さんのように我を通す政治家は、実は世界の政治家には、ままいるんです。今の日本の政治家は勉強ができてスマートだけど、そういうところの粘りは、若干欠けている。この20年間、日本の政治は小沢さんに振り回されてきたけど、日本に小沢さんのような人があと100人いたら、政治は変わっていたと思います。

大下:100人はいらない。小沢一郎があと5人もいれば政治は変わっていた。

【※】郵政解散/2005年8月、参院で郵政民営化法案が否決されたことを受け、首相だった小泉氏は衆議院を解散。総選挙では反対票を投じた議員に刺客を立て、自民党は圧勝した。

※週刊ポスト2012年8月31日号

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