ライフ

被災地で喫煙所が「癒しスポット」になる理由を医師が解説

震災から2度目の夏が終わりを告げようとしている――。東北各地の被災地ではようやく人々が生きる希望を見つけ、徐々に笑顔も取り戻しつつある。だが一方で、いまだに住居さえ定まらず、仮設住宅の暮らしを強いられている被災者たちが多い現実を忘れてはなるまい。

 福島県内で社会福祉士をしている女性はいう。

「仮設住宅は避難所暮らしから考えればプライバシーは守られていますが、薄い壁で仕切られただけの狭いプレハブ住宅。震災前にご近所だった知り合いと離れ離れになってしまった人たちにとっては、居場所があるようでないんです。そんな生活にストレスを抱えてひきこもりがちになってしまう人は後を絶ちません」

 実際に仮設住民に話を聞いてみても、やはり心は落ち着かない様子だった。

「私の家は震災後に立ち入り禁止エリアになりました。その後解除されたので、昼間は元の家でひとりボーっとして過ごしています。建て替えしなければとても住めませんが、自然と足が向かってしまうんです。やはり、仮設は気を使いますしね」(70代女性)

 そんな張り詰めた人たち同士が本音の触れ合いを求め、癒しの居場所として挙げたのは、意外にも不謹慎と疎まれがちなパチンコ店の休憩所や、仮設所の隅にひっそりと設けられた喫煙所だった。

 継続的に被災地取材を続けているジャーナリストが話す。

「仙台市内のパチンコ店は震災から1週間程度で復旧し、被災した住民たちに進んでトイレや休憩所を無料開放していました。休憩所内ではめったに顔を合わせないような住民たちが集まり、一服しながら『お宅の被害はどうだった?』などと会話を交わし、貴重な情報交換の場となっていました。

また、岩手県山田町の仮設では、敷地の一角に瓦礫を利用した『基地』を作り、中でストーブを焚いて、おじいさんから若者までが一緒にタバコを吸いながら談笑していました。みな苦しい身の上ながらも微笑ましい光景でしたね」

 生活物資の足りない状況下で、酒やたばこといった嗜好品はぜいたく品であることに変わりない。限られたスペースでたしなまなければ肩身の狭い思いをするのも分かる。しかし、同時に大切なコミュニケーションツールになっていたことだけは確かなようだ。

『タバコ有害論に異議あり!』の著者で、獨協医科大学放射線科助教の名取春彦氏は、研究者の立場からたばこの効用について説く。

「たばこは脳を緊張モードからリラックスモードに転換してくれる。精神の緊張をずっと引きずっていたら、その分だけ精神は疲労して心の病につながります。また、喫煙でリラックスすることにより神経回路が一時ほぐれ、また違った回路が通じるようになる。これは発想の転換と同じことです」

 前出のジャーナリストは、被災地を巡回する自警団からこんな話を耳にしたという。

「警備する地区の順番や方法を練るとき、仮設所内の会議室であれこれ話し合うよりも、喫煙所で雑談交じりに案を出したほうが、普段は思いもよらないアイデアが浮かんでくるものなんです」

 今後も復興へ道のりは険しく、莫大なエネルギーが必要とされる。しかし、そんな極限状態の中にあって、たばこが言葉通り“一服の清涼剤”となるなら、もう少し寛大に見られてもいいのかもしれない。

関連記事

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン