国際情報

元外務省幹部「尖閣は米が守ってくれると思ったら大間違い」

 尖閣問題で中国に対し強硬な態度を示そうとする人々は、多くがこう思っているはずだ。「いざというときは米国が守ってくれる」と。だが、果たしてそれは本当なのか。元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、「それは従米派の人々の一方的な思い込みでしかない」と指摘する。以下、孫崎氏が語った。

 * * *
 米国は尖閣問題について、2つのポジションを巧妙に使い分けている。

 1つ目は、「尖閣諸島は安保条約の対象になっている」という考え方で、2010年9月に起きた尖閣沖の漁船衝突事件の際も、ヒラリー・クリントン国務長官はこのように述べている。

 確かに、日米安保条約第5条には、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」とあり、尖閣が攻撃された場合、米軍が出動するのは自明なことのように思える。

 だが、そうではない。

 この条文の「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という表現に注目してほしい。米国の憲法では、交戦権は議会で承認されなければ行使できない。つまり、日本領土が攻撃されたとしても、米議会の承認が得られない限り、米軍は出動しないのである。

 米国のもう一つのポジションは、「領土問題については、日中どちらの立場にも与しない」というものだ。

 2005年に日米政府が署名して規定した『日米同盟 未来のための変革と再編』では、「島嶼防衛は日本の責任である」ことが明確化された。尖閣諸島も、もちろんこの対象である。米国は、中国が対台湾向けに沿岸部へ配備した強大な軍事力と、在日米軍だけで相対することを嫌がっている。だからこそ日本に責任を押しつけたのだ。

 そうはいっても、実際に尖閣が中国に奪われれば米国も黙っていないのではないか、という考えも甘い。

 アーミテージ元国務副長官は、著書『日米同盟vs.中国・北朝鮮』(文春新書)のなかで、「日本が自ら尖閣を守らなければ、我々も尖閣を守ることができなくなるのですよ」といってのけた。

 どういうことか。尖閣諸島が中国に実効支配された場合、尖閣諸島は日本の施政下から外れる。すると、尖閣諸島は日米安保条約の対象外になり、米軍の出る幕はなくなるのである。

 つまり、米国は尖閣を「安保の対象」といいながら、実際に中国が攻めてきた場合にも、さらに実効支配されたときですら、米軍が出動する義務を負わないよう、巧妙にルール作りをしてきたのである。

 1996年には、モンデール駐日大使(当時)がニューヨーク・タイムズ紙で、「米国は(尖閣)諸島の領有問題にいずれの側にもつかない。米軍は(日米安保)条約によって介入を強制されるものではない」と明言した。

 多くの日本人は「在日米軍は日本領土を守るために日本にいる」と信じている。モンデールの発言は、その日本人の思い込みと、実際の米国側の認識とのギャップ、つまり不都合な真実を明らかにしてしまった。

 いま、尖閣問題で勇ましい発言を繰り広げている親米保守の方々は、こうした米国側の認識を踏まえているのか、私にははなはだ疑問である。

【プロフィール】
まごさき・うける●1943年生まれ。外務省に入省後、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て、2009年まで防衛大学校教授。近著『戦後史の正体 1945-2012』(創元社)が大きな話題を呼んでいる。

※週刊ポスト2012年9月7日号

トピックス

オリエンタルラジオの藤森慎吾
《オリラジ・藤森慎吾が結婚相手を披露》かつてはハイレグ姿でグラビアデビューの新妻、ふたりを結んだ「美ボディ」と「健康志向」
NEWSポストセブン
川崎、阿部、浅井、小林
〈トリプルボギー不倫騒動〉渦中のプロ2人が“復活劇”も最終日にあわやのニアミス
NEWSポストセブン
驚異の粘り腰を見せている石破茂・首相(時事通信フォト)
石破茂・首相、支持率回復を奇貨に土壇場で驚異の粘り腰 「森山裕幹事長を代理に降格、後任に小泉進次郎氏抜擢」の秘策で反石破派を押さえ込みに
週刊ポスト
別居が報じられた長渕剛と志穂美悦子
《長渕剛が妻・志穂美悦子と別居報道》清水美砂、国生さゆり、冨永愛…親密報道された女性3人の“共通点”「長渕と離れた後、それぞれの分野で成功を収めている」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《母が趣里のお腹に優しい眼差しを向けて》元キャンディーズ・伊藤蘭の“変わらぬ母の愛” 母のコンサートでは「不仲とか書かれてますけど、ウソです!(笑)」と宣言
NEWSポストセブン
2020年、阪神の新人入団発表会
阪神の快進撃支える「2020年の神ドラフト」のメンバーたち コロナ禍で情報が少ないなかでの指名戦略が奏功 矢野燿大監督のもとで獲得した選手が主力に固まる
NEWSポストセブン
ブログ上の内容がたびたび炎上する黒沢が真意を語った
「月に50万円は簡単」発言で大炎上の黒沢年雄(81)、批判意見に大反論「時代のせいにしてる人は、何をやってもダメ!」「若いうちはパワーがあるんだから」当時の「ヤバすぎる働き方」
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン
負担の多い二刀流を支える真美子さん
《水着の真美子さんと自宅プールで》大谷翔平を支える「家族の徹底サポート」、妻が愛娘のベビーカーを押して観戦…インタビューで語っていた「幸せを感じる瞬間」
NEWSポストセブン
“トリプルボギー不倫”が報じられた栗永遼キャディーの妻・浅井咲希(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫》女子プロ2人が被害妻から“敵前逃亡”、唯一出場した川崎春花が「逃げられなかったワケ」
週刊ポスト
24時間テレビで共演する浜辺美波と永瀬廉(公式サイトより)
《お泊り報道で話題》24時間テレビで共演永瀬廉との“距離感”に注目集まる…浜辺美波が放送前日に投稿していた“配慮の一文”
NEWSポストセブン
芸歴43年で“サスペンスドラマの帝王”の異名を持つ船越英一郎
《ベビーカーを押す妻の姿を半歩後ろから見つめて…》第一子誕生の船越英一郎(65)、心をほぐした再婚相手(42)の“自由人なスタンス”「他人に対して要求することがない」
NEWSポストセブン