ライフ

梅ちゃん先生「星一つ」評価のポイントは「地域医療」の描き方

 メディアのあり方が変貌しつつある。この作品をめぐる動きは、後に振り返ってみれば“事件”と位置づけられるようになるかもしれない。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が総括する。

 * * *
 9月29日、半年間の放送が終わったNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』は、大きな話題を集めたドラマでした。20%超えという高視聴率だけではありません。「好評のうちに終わりました」と一言では括れない、複雑な現象がこのドラマをめぐって起こっていたからです。

 一般の視聴者が感想を書き込む、ウェブのヤフーテレビ「みんなの感想」コーナー。「梅ちゃん先生」については、半年間で4万3千件を超える大量のコメントが掲載されました。

 これだけの感想がネット上に寄せられ、他の人の感想を直接読むことができたのは、おそらく朝ドラ史上、初めてのことではないでしょうか。

「毎朝癒された」「楽しみに見た」という肯定的な意見の一方、コメントの7割以上が評価「星一つ」という厳しい採点でした。批評の内容を見ると、多岐に亘っています。

「リアリティが乏しい」「昭和という時代の考証が不十分」「蒲田というまちが見えてこない」「子育てが描けていない」「家族のあたたかさが伝わってこない」などなど。

 俳優の好き嫌いやストーリーに対する好みの問題はさまざまですからここでは問題にしませんが、「地域医療に貢献する女性医師」を主題に掲げたこのドラマに、医療の描き方に対しての厳しい批評が寄せられたことはちょっと見逃すことができませんでした。

「ご献体に対して、お化け屋敷のようにキャー、怖いなどと医学生が騒ぐシーンはどうしても許せなかった」という意見、「近くに大きな病院ができたら患者は町の医者へは行かなくなるという筋だては、地域医療や患者を理解していない」、「医者が新薬の治験を安易に進めている、という誤解を与えてしまう」といったものもありました。

 インターネットが浸透し、社会に対してさまざまな働きかけや影響力を持つようになりました。「中東の春」にはソーシャルネットワークの影響力が指摘され、中国の反日デモはITを介して全土に呼びかけられたと言います。

 日本も例外ではありません。たとえば「エネルギー・環境に関する選択肢」についてのパブリックコメントを国がネットで募集し、たくさんの人が意見を寄せました。法律や政治の方向性を決める際に、国がネットを使って意見を募る方法はすでに広く認知されています。

 そのように変化してきた社会状況の中で、たとえ朝ドラとは言っても、公共放送で数千万人の目に毎日触れる内容について、ネット経由でたくさんの意見が寄せられました。「地域医療」という「命」をめぐる社会的なテーマに対して、視聴者が発信したコメントを、いかに受け取り、いかに今後に反映させるのか。

 視聴者の声に応えて真摯に考えることを、公共性のともなう放送局が求められる時代が、ネット社会とともにやってきたのではないでしょうか。「梅ちゃん先生」は、その意味で、新しい社会的現象を生んだドラマとして記憶されることでしょう。

 10月には続編スペシャル「梅ちゃん先生~結婚できない男と女~」が放映される予定です。その前に、視聴者から寄せられた数々の「地域医療」という大切なテーマに対する批評について、正式な見解をパブコメすることが放送局に求められているのかもしれません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト