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尖閣騒動で得したのは米国 戦闘機やイージス艦増やせとの要求

 尖閣諸島問題に端を発した「反日デモ」が中国全土で繰り広げられる中、民主・自民両党の党首選では、「毅然とした態度を取る」(野田佳彦・首相)、「中国には国際社会の一員としての資格がない」(安倍晋三・自民党新総裁)など、中国に対する厳しい発言を各候補が繰り返した。

 それは当然である。しかし、その勇ましい論戦に耳を傾けた人にはこんな思いを持った人が少なからずいたのではないか。「なぜ、誰もアメリカにはもの申さないのか」――と。

 オスプレイ配備、TPP参加問題などで「外圧」を強める米国には、誰一人として批判的な発言を口にしない。だから、いくら総理大臣や“次期総理大臣”が「外国にモノを言える政治家」をアピールしても、そこには虚しさがつきまとう。

 新刊『アメリカに潰された政治家たち』(小学館刊)で、現政権を「戦後最大の対米追随」と喝破した孫崎享氏と、早くから「アメリカの対日要求圧力」問題を看破してきたノンフィクション作家の関岡英之氏が語り合った。

――野田政権は事故が相次ぐオスプレイについて、「安全性は十分に確認された」として9月19日に安全宣言を出した。現政権の対米追随ぶりを象徴するのではないか。

孫崎:米国が在日米軍基地へのオスプレイ配備を発表したとき、野田首相は「米政府の基本的な方針で、(日本が)それをどうこうしろという話ではない」と発言している。これは図らずも日米安保、日米同盟の本質を表わした言葉です。

 日米地位協定では、在日米軍基地に対して日本はほとんど口出しできないように規定されているのですが、歴代の日米政権はその点ははっきりと明言してこなかった。ところが、野田首相は「本当のこと」を平然と口にしてしまったわけです。しかも、わざわざ日本側から「安全宣言」まで出して、米国の方針に付き従おうとしている。むき出しの対米追随をただただ露呈するばかりです。

関岡:孫崎さんの新著(『アメリカに潰された政治家たち』)を読んで非常に興味深かったのが、オスプレイを岩国基地に配備したことで本州が飛行ルートに入り、今まで沖縄に封じ込められてきた米軍基地問題が、日本国民全体に共有されるようになったという指摘です。オスプレイを日本の領空に解き放ってしまったことで、パンドラの箱を開けてしまったのではないか。

孫崎:オスプレイ配備交渉に対する怒りは国民全体へ拡大しています。しかし、民主党も自民党も党首選でオスプレイ問題を争点にしようとしない。両党とも対米追随しか日本の道はないと思考停止している政治家しかいなくなってしまったのです。

関岡:かつてミサイル防衛システムを導入したときも、当時与党だった自民党はもちろん、野党だった民主党も異議を唱えなかった。しかし、ミサイル防衛システムを導入すれば、自衛隊は情報収集から指揮系統まで米軍のシステムに組み込まれて一体化することになり、自主独立の国防など永久に不可能になります。国論を二分してもおかしくない問題なのに、最初から結論ありきで進められた。

孫崎:尖閣諸島の領有問題でも、米国の影が見え隠れしています。

 中国が尖閣領有を主張し始めるのは1970年代ですが、1979年5月31日付の読売新聞の社説「尖閣問題を紛争のタネにするな」では「この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた」とし、棚上げ状態を保つことが日本の国益にかなうとしている。

 当時の園田直・外相も「我が国は刺激的、宣伝的な行動は慎むべき」と国会で答弁しています。それなのにいま、これほどの騒ぎになっているのは、背景に米国がいるからです。日中間を緊張させて中国脅威論を煽り、在日米軍の必要性を日本人に訴えるという意図が顕在化している。

関岡:孫崎さんの著書に「尖閣諸島に上陸した香港保釣行動委員会は、1970年に米プリンストン大学で台湾人留学生が結成した」とありますが、同大学はダレス兄弟(ジョン・フォスター・ダレス元国務長官とアレン・ウェルシュ・ダレス元CIA長官)やジェームズ・ベイカー元国務長官、ドナルド・ラムズフェルド元国防長官など、米国の世界戦略を担った共和党系要人の出身校です。

 戦後60周年という節目の2005年に中国全土で吹き荒れた反日暴動のときも、在カリフォルニアの反日団体が煽動の発信源でしたね。

孫崎:今回の尖閣騒動で一番得したのはアメリカです。ケビン・メア元米国務省日本部長は『文藝春秋』10月号に寄稿して、「尖閣で日本は大変だからF35戦闘機をもっと買え、イージス艦を増やして配備しろ」と要求をエスカレートしている。あまりにも率直すぎて驚きます。

 もちろん、尖閣問題が起きていなければ、オスプレイの飛行訓練実施には、さらに強い批判が巻き起こっていたと思います。

※週刊ポスト2012年10月12日号

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