ライフ

弘兼憲史氏「団塊世代は出世バネに奮起 格好悪い熱意持て」

 韓国や中国勢の猛追を受け、経済で苦戦を強いられる日本。円高や高齢化だけが原因ではない。働き手のモチベーションは成長期と比べてどうなのか。経済大国ニッポンを築いた団塊世代を描き続けてきた漫画家、弘兼憲史氏が現代のサラリーマンを激励する。

 * * *
 私の幼少期には、食べ物がなく、お腹を満たすために蜂の巣を叩き落として蜂の子を食べたり、美味しくもない野草を野原で摘んで囓ったりした。今よりもいい生活をしたいという欲求があり、ハングリーさがあった。

 だが今の40代より下の世代は、生まれた時からモノが世の中に溢れ、何一つ不自由なく暮らしてきた。それが果敢に挑戦しない原因のひとつだと思う。

 結果、若いサラリーマンの間には「この程度働いて、そこそこ幸せであればいいよね」という空気が蔓延している気がしてならない。泥臭さや努力することを格好悪いとする向きもある。

 しかし、すぐ隣に目を向ければ状況は一変する。

 私はマンガを描くために、中国や韓国などアジアの労働市場をよく取材するが、中国人は大変ハングリーだ。大学生の勉学に対する熱意は日本の学生の比ではない。

 また韓国は国内市場が小さいため、最初から世界を相手に商売しようと戦略を立ててきた。韓国人は、国際人にならなければいい仕事に就けないため、留学してスキルを上げようと必死だ。

 業績好調のサムスンを見てもそうだ。新入社員にはTOEIC900点以上を義務づけている。米国ハーバード大学でも、以前は東洋人留学生と言えば日本人だったが、今は韓国人と中国人が多数を占めている。

 サラリーマンが変わらなくても日本企業は大きく変わった。パナソニックの新卒社員の海外採用比率は7割を超えている。優秀な人材を集めたい企業にとって、国籍、民族は関係ない。嫌でもハングリーな人たちと競争しなくてはいけない時代なのだ。

 団塊世代ががむしゃらに働き、出世を競い、時に同僚が素晴らしい仕事をすれば悔しがり、それをバネに奮起したように、今のサラリーマンにも「格好悪い熱意」を持って欲しい。コツコツ努力して、泥臭いこともしてそれが格好悪くてもいいじゃないか。格好つけて落ちぶれていくのなら、ぶざまでいいから前へ進もう。

 もし、「ハングリーになれ」という言葉がしっくりこないならば、こう考えて欲しい。3.11以降、多くの日本人が大地震に備えて水や食糧を備蓄するようになった。同じように万が一、倒産、リストラという“大地震”が襲ってきても大丈夫なようにスキルを“備蓄”するという発想で働くのだ。

 グローバルな社会に生きている以上、相手にすべきは海外市場だ。特に成長著しい東南アジアやインド、南米やアフリカといった新興国だ。そこで、どんな勝負をするか。今後、サラリーマンには人生の半分を新興国で過ごす覚悟が必要になるだろう。

「お前は日本で漫画家という好きな仕事をしているからそんなことが言えるのだ」と批判されるかもしれないが、私のような者でも国際化への対応はやはり必要なのだ。

 私のマンガづくりの基本は、「情報50%、エンターテイメント50%」だ。『島耕作』シリーズは、ビジネスを舞台にしているので、現代社会の流れを把握していなければならない。アメリカや中国など、海外ビジネスの現場取材も欠かさず、情報収集に努めている。仕事に対する私なりのプロ意識だ。

 まずは世界を知ることだ。恐れずどんどん世界へ出て行って欲しい。

※SAPIO2012年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
《重い病気を持った子を授かった夫婦の軌跡》医師は「助からないので、治療はしない」と絶望的な言葉、それでも夫婦は諦めなかった
《重い病気を持った子を授かった夫婦の軌跡》医師は「助からないので、治療はしない」と絶望的な言葉、それでも夫婦は諦めなかった
女性セブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン