そんなやりとりの最中に、来合わせたのが、名古屋のことならなんでも取材するという、名古屋ネタライターの大竹敏之さん(47)。『名古屋の居酒屋』を上梓しているだけに、守備範囲は広く、知識も深いわけで、さすがにこの店もアンテナに捉えていた。
「名古屋は喫茶店文化が根付いてますから、立って飲む、立って食べる形態の店は、非常に少ないんです。そんな地域では、貴重な存在でしょう。こんなに歴史があり、繁盛しているのは、こういう店を欲している人が潜在的にいるということなんです」
さらに適しているのが、名古屋人が持っている距離感だという。
「東京に対しても大阪に対しても、変なライバル意識がないんで、誰とでも和やかに話せるんです。大阪みたいにアクも強くないから、ひとりでも放っておいてくれるし、話しかければ、すぐに相手になってくれる。この距離感が立ち飲みには合っていると思うんです」
午後8時を過ぎて、さらににぎやかに盛り上がってきた。
「いつもは今頃来るんだけど、今日は休暇が取れたんで、初めて5時前の明るいうちに来てみたんです。雰囲気が変わるし、遅くなるとなくなっちゃうつくねなどのうまいものがまだたっぷりあるし、やっぱりいいもんですねえ」(40代)
どこの角打ち、立ち飲みの店でも見られた幸せそうな後姿で、その男も揺れながら帰っていった。ほんと、いいもんです。