30人は一度に飲めそうな意外に広く、そして清潔な店内。その壁には、短冊形のお品書きが、行儀よくびっしりと貼られている。
本日のおすすめ カレーコロッケ100円、豚玉葱120円などと、うまそうなうえにとんでもなく安いメニューばかりだが、そんな中で妙に秋波を送って来る気がするのが、おでん関東煮(かんとだき)と書かれた短冊だ。こんにゃく、大根、牛すじ、はんぺい(名古屋だけのさつま揚げ)など、8種類のたねの名前を読んでいるだけでも、なぜかそそられるのだ。
カウンターにいるわけ知り顔のサラリーマンたちも、「食べてみたらいいじゃない」という視線。
この立ち飲み部門は、横田さんは一切タッチせず、いかにも手馴れた雰囲気で、手際もテンポもいいパートのふたりのおねえさんが仕切っているのだが、作るのは彼女たち。
「名古屋のおでんといったら、味噌おでんなんですけどね。うちのは、ふつうの関東風のものです。違うのは食べ方なのよ。東京の人は辛子をつけるでしょ。でもここでは、砂糖と出汁を入れてコトコト煮込んだ甘めの赤味噌なんです。毎日、大鍋でおでんを煮込むんだけど、この味噌のせいか、必ず売り切れちゃいますね」
さすが名古屋と言わざるを得ない。辛子ベースでは味わえない、尾張の関東煮だ。
「この甘い味噌をつけたおでんを食べながら、甘くないすっきりした飲み口の焼酎ハイボールを飲んでみたんですよ。合う。合います。どっちも引き立つ。やってみたほうが得だって」(44、公務員)