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『悼む人』で死と向き合った天童荒太 新作で生きること表現

 2008年の『悼む人』以来、4年ぶりとなる長編『歓喜の仔』(幻冬舎刊)を上梓したばかりの作家・天童荒太氏(52)。新作に込めた思いについて聞いた。(取材・文/佐久間文子  撮影/岩根愛)

 撮影の日は気持ちのいい小春日和で、四年ぶりの長編『歓喜の仔』が出たばかりの作家の表情は終始明るかった。

「(前作の)『悼む人』で人の死にとことん向き合った後だったので、今回は生きることを追い求める仕事をしたかった。生きようとしているのに生きることを疎外する世界があり、それでも生き抜いていくには何が必要かってことを表現したいと思う気持ちがまず始めにありました」

『歓喜の仔』の主人公は誠、正二、香の三人きょうだい。従兄の連帯保証人になって父は失踪、母は大怪我から寝たきりに。暴力団に借金返済を迫られる過酷な環境で、三人は他者とつながり生き延びる手立てを探る。

 百三十万部のベストセラー『永遠の仔』にも使われたタイトルの「仔」の文字は、「動物としての人間」を強く印象づける。

「自立とか自己責任とか、あいまいな言葉で孤立させられているけど、人間はもともと群れでいないと生きられない存在。そうしなければ、この危機を孕んだ世界を生きてはいけないと言いたい気持ちがすごくありますね」

 質問に対して反射的に返さず、丁寧に選んだ言葉が戻ってくる。児童虐待を扱う『永遠の仔』や、大切な存在を亡くした人を念頭に置いた『悼む人』では、傷ついた人を自分の作品でさらに傷つけることのないように表現に配慮し、つねにブレーキをかけながら執筆したという。

 今回の『歓喜の仔』では久しぶりにブレーキを外してみた。細かなプロットも作らず、どこに向かうのか自分でもわからないまま物語が動くのにまかせた。

「なんで人間が滅びないのか、不思議だよ」。このせりふが登場人物の口から出たときは、天童さん自身も「答えを知りたい」と思った。小説の最後で、みずから立てた問いへの答えを語る主人公の言葉をワープロで打ちながら、涙が止まらなかったという。

※週刊ポスト2013年1月25日号

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