国内

東大・京大がスタンフォードに勝てない理由 瀧本哲史氏が指摘

京大人気No1教官の瀧本哲史氏「勉強はサッカーに見習うべき」

 京都大学の教養課程の「英語化」が話題を集めている。京都大学客員准教授で、エンジェル投資家でもある瀧本哲史氏は、東大・京大レベルでは、英語化は不可避な流れだと話す。英語力によって大学や仕事が選別される時代において、日本の教育はどうあるべきなのか。瀧本氏に聞いた。

 * * *
――大学受験で求められる英語力が高度化すれば、早期教育の必要性が高まっていくのでしょうか。

瀧本:高レベルの大学を目指す学生ほど、早期の選抜が進むのは避けられません。これから重要になってくるのは、教育を均質にすることではなく、才能のある人に、より早くチャンスを与えること。例えばサッカーには、そういう仕組みがあります。

 全国にJリーグのジュニアチームがあって、そこで選抜された選手には、ふさわしいチャンスが与えられていく。サッカーには飛び級が存在しますが、誰も文句を言いません。いまJリーグでは英語教育もするし、私はディベートを教えに行ったりもしています。グローバル競争が激しいサッカー界には、グローバル人材を育成するシステムが構築されているんですね。

――世界で活躍するには、サッカー選手にも英語とディベートが必要だと。

瀧本:JFA(日本サッカー協会)の方が言うには、かつては、足が速くて、上手にボールを蹴る選手が欲しかった。いまは、コミュニケーション力のある選手じゃないと生き残れないと。一流チームで活躍するには、バックグラウンドの異なる選手と、戦術を共有しなければなりません。チームメイトに、自分の意思を説明しなければいけない。日本のサッカーが強くなったのは、グローバルに活躍できる人材を育成するシステムが機能し始めたからです。

 正しいメソッドと正しいインセンティブが働けば、その競技は強くなる。一方で、相変わらず指導が古い柔道などは、世界で勝てなくなっています。学問も、“サッカー化”する必要があるのです。

――京大は英語化に続き、推薦入試の導入も発表しました。東大も、推薦入試の導入を決めています。二校の相次ぐ改革は、現状への危機感の表れと受け止めることもできます。

瀧本:東大・京大にとっては、いままさに、世界のなかに踏みとどまれるか、日本のローカル大学に成り下がるのかの瀬戸際にあります。海外の学生や研究者から見て、東大・京大が来たい大学でなくなったら終わりです。これは、大学だけの問題ではないんですね。

 わかりやすくいえば、アメリカのボストンではライフサイエンスが、西海岸ではITが成功しています。そうした産業を支えているのが、ハーバード大学(ボストン)とスタンフォード大学(カリフォルニア州)という二大名門大学。大学が世界中から優秀な人材を集め、彼らが卒業した後、ビジネスで成功していくというサイクルが地域に根付いている。教育機関とビジネスの密接性は高くなっていて、大学の没落はすなわち、国の没落につながるのです。

――日本の大学がアメリカの名門大学と肩を並べることができるのでしょうか。

瀧本:簡単じゃないでしょうね。一つ大きな違いがあって、日本の大学は国の予算で運営しているけれど、海外の大学は、膨大な寄付金で成り立っている。スタンフォード大学は、一人息子を亡くした鉄道王が、息子の名前を残したいと、競走馬を育てるために所有していた牧場を寄付してできた大学です。欧米の名門大学は、世界中から、優秀な人には十分な奨学金を与えて、人材を集めます。そのなかから億万長者が誕生し、彼らが母校にまた寄付をするんですね。

 そういうレベル感の世界と比較すると、日本は貧しい国なんです。

――東大・京大以外の大学の頑張りも必要になってくるのでしょうか。

瀧本:それも実は簡単じゃないんですね。人口が増え、進学率が上がったここ数十年間は、大学は最も成長を遂げた産業でした。ですが、新興ベンチャーでいい大学というのはなかなか生まれない。いい大学がいい先生と生徒を集めるという脈々と続く強固な歴史があるので、突然変異的に、いい大学を作るのは難しいのです。

 ただ、いくつか例外があって、その一つが上智大学です。ここ数十年で上智大学のレベルは格段にアップしました。上智はカトリック系ですから、そのネットワークを使って、世界中からよい先生と生徒を集めることができたんです。この例からも、グローバルを相手にしないと勝負できない時代だということがわかります。

――先生は著書『僕は君たちに武器を配りたい』で、大学の教養(リベラル・アーツ)の重要性を説いておられますが、いま時代、必要な教養とは何でしょうか。

瀧本:著名な投資家ジョージ・ソロスは、科学哲学者カール・ポパーの弟子で、学生時代は研究者を志していました。が、挫折して、やむを得ず、証券会社に就職する。その後、投資家になった彼は、「理性の限界」について考えたことが投資戦略に役立っていると語っています。

 これは一例ですが、グローバル展開している企業の幹部は、口をそろえて「哲学」が重要だと言います。専門性を持っているよりも、たくさんの“引き出し”を持っているほうが有利だと。専門知識は、企業が所有しているんです。企業に入ってから学べばいい。学生に求められるのは、知識ではなく、様々な考え方。すでにルールの決まった世界で一生懸命努力しても、付加価値は生まれません。企業は、非連続の変化を生み出せる人材を欲している。そのために武器となるものこそが、教養なのです。

【たきもと・てつふみ】
東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科助手、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。現在は、エンジェル投資家、京都大学客員准教授。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事、星海社新書軍事顧問などもつとめる。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン