ライフ

医師断言 体罰では顧問言いなりになるだけで一流選手育たぬ

 昨年、運動部顧問の体罰がきっかけで高校生が自殺した事件が報じられて以来、体罰と教育、スポーツについての報道が途切れない。どんな悲惨な事故が起きても、必ず「ある程度の体罰は必要」との言葉が聞こえてくる。
 
 言って分からない人間は必ずいるのだから、その人間には暴力でわからせるしかないという理屈だ。それは真実なのか。諏訪中央病院名誉院長で『がんばらない』著者の鎌田實氏が、人は暴力で変わるのかについて論じる。

 * * *
 人は変わりにくい。が、しかし、人は変わるのである。そのときに、無理な手法を使ったり、強制をしても、人が本気で変わろうと思わない限り、変われないということを、僕は身を持って経験した。

 自分も変わりながら、周りの人を巻き込みながら、みんなで、ある目的に向かって変わっていくことが大事である。人を変えるための手段として、古くから暴力が使われてきた。

 昨年、大阪市立桜宮高校2年生の男子バスケットボール部のキャプテンが、顧問からの体罰を受けた翌日に自殺した。

 顧問は「しっかりやれと叩くことで、部員たちの気持ちが変わり、チームが強くなることがあった」「彼をレベルアップさせることは、全体の向上につながると思った」と語っている。

 顧問は懲戒免職になり、傷害と暴行の容疑で大阪地検に書類送検された。

 僕は、この顧問は、悪気はなかったと思う。チームを強くしたいという情熱があふれていただけなのだと──。

 しかし、亡くなった男子生徒は「なぜ僕だけがしばき回されなければいけないのか」と顧問に手紙を書いていた。けれど、結局は顧問が怖くて渡せなかったのである。

 この顧問のスタイルで、2年の男子生徒が変わり、チームが強くなるなんてことはありえるのだろうか。絶対的な上下関係の中で繰り返される体罰は、恐怖以外の何物でもない。

 怖くて、その場ではいうことを聞いたような素振りをして自分を守ろうとするのだろうが、本当に従っているわけではない。兵庫県高砂市立中学校の野球部でも体罰が行なわれていた。

 その体罰に関してアンケート調査がなされたが、野球部員の保護者会から、体罰がなかったように回答するようにと依頼されたという生徒もいたという。

 とんでもない話だ。監督やコーチだけではなく、学校の校長をはじめとして教職員たちや保護者たちも体罰を容認しているのだから。体罰によって、一流の選手は絶対に育たない。その顧問のいいなりの選手が育つだけなのだ。

 試合で闘うのは生徒である。自分自身がそのスポーツを好きになり、強くなりたいと願わなければ、強い選手にはなれない。無理やりムチで叩いたところで本物のアスリートは生まれない。

●鎌田實(かまた・みのる)1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。ベストセラー『がんばらない』ほか著書多数。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。

※週刊ポスト2013年5月3・10日号

関連キーワード

トピックス

二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン