国内

佐藤優氏 後輩と外務省の思い出語り「ブラック官庁」と溜息

 昨今「ブラック企業」という言葉が各所で取り沙汰されている。長時間低賃金労働やパワハラが横行するような企業のことで、ベンチャー企業などがヤリ玉に挙げられることが多い。だが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏によれば、「ブラック企業」の要素は、新興企業のみならず、大企業や大新聞社、霞が関(中央官庁)にもあるという。佐藤氏が述懐する。

 * * *
 ブラック企業の手法は粗野なものから洗練されたものまでさまざまだ。受話器と左手をガムテープで結びつけて1日100件以上の営業電話をかけさせる、マニュアルをあえて手書きで写させる、過剰な営業ノルマを課すなどというのは粗野な手法だが、筆者が外務省(モスクワの日本大使館)で経験したのは、それを通り越して、犯罪行為といじめに近い内容だった。
 
 2つほど実例を記しておきたい。第1はこれまでにも拙著などで告発し、国会審議でも問題となった、大使館で扱う闇ルーブルの管理だ。KGB(国家保安委員会=秘密警察)は、アフリカ、中東諸国の在モスクワ大使館に大量の闇ルーブル(公式レートの3分の1から10分の1)を流していた。
 
 これらの外交官に、日本大使館員は中古車を購入価格の数倍で販売し、私的蓄財をしていた。さらに中古車販売で得たルーブルを大使館内で闇レートでスウェーデン・クローネに替えることなどが組織的にシステム化されていたのだ。
 
 もっとも筆者が露骨に嫌な顔をすると、2日後に上司から「君はこの仕事をしなくていいよ」と言われた。この仕事は筆者の1年後輩の専門職員(ノンキャリア)が担当したが、汚れ仕事に嫌気がさして数年後に外務省を辞めた。昨年、筆者は十数年ぶりにこの後輩と会ったが、思い出話をするうちに「外務省は恐ろしいブラック官庁ですね」と2人で溜息をついた。
 
 モスクワの日本大使館では「根性をつける」系統の仕事もあった。筆者が勤務していた政務班は3階にあり、職員は男性ばかりだった。そのために部屋は汚く、便所からは悪臭がした。気持ち悪いので、筆者はこの便所を使ったことは一度もなかった。

 ある時、陰険な2年上のキャリア職員に便所掃除を命じられた。便器には糞がこびりつき、アンモニアで目が痛くなる。それと、トイレで自慰行為をしている職員がいるせいか、陰毛とちり紙のかけらが大量に落ちている。公園の公衆便所よりも酷い状態だった。
 
 筆者が便所掃除をしていることについて、当時、駐ソ日本大使館の特命全権公使を務めていた川上隆朗氏(その後、インドネシア大使)にさりげなく話すと川上氏は「だからロシアスクール(外務省でロシア語を研修し、対露外交に従事することの多い語学閥)はダメなんだ。佐藤君に迷惑がかからないように僕がうまくやる」と言って、大使館に清掃を担当するロシア人を雇い、若手の職員がそのロシア人を監視しながら3階の便所を掃除することにした。それ以外にも、筆者がロシア語から訳した文書を、起案者の名前を自分に書き換え、公電(外務省の公務で用いる電報)にする上司もいた。
 
 ここで挙げたうち、闇ルーブルの扱いは、“ヤバイ仕事”と思ったが、便所掃除、公電の成果横取りなどは、どの官庁や企業でも平気で行なわれていることと思っていた。ちなみに外務本省に帰ってからの筆者の超勤時間は月平均250~300時間だった。
 
 職業作家になってから外務省以外の官庁や民間企業の人と話すと、異口同音に「佐藤さん、他の役所や民間企業ではそんな酷い仕事はさせませんよ。モスクワの日本大使館は、まるで一昔前のタコ部屋じゃないですか」と言われ、外務省がいかに特殊な職場文化を持っていたかについて自覚した。

※SAPIO2013年6月号

関連記事

トピックス

大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン