国内

市川海老蔵、内柴正人、市橋達也、加藤智大の裁判の様子とは

 東京地裁では数多くの裁判が行われている。その傍聴は無料でできるが、世間の注目度が高い裁判のときには、抽選のために長い列を作って傍聴券を求める。裁判というのはどれも陰影に富み、奥行きが深いと前置きしたうえで、著名人の裁判の様子を作家の山藤章一郎氏が報告する。

 * * *
 マニアにいわせると、傍聴人の数は近年、激増しているという。年金暮らし、早期リタイア組、主婦グループ、ニート、学生。殊に、著名人の裁判は希望者がふくれあがり、抽選になる。

〈司法統計〉によれば、東京地裁が1年に受け付ける事件の数は、刑事が1万と少し、民事は13万件を超す。それだけの数の人生の現実が眼前に突き出されて、好奇を掻きたてられる。

 少し日が経った法廷だが。市川海老蔵殴打・初公判──。被告人と同席していた証人がなまなましく答える。

「海老蔵さんも立ち上がり、テーブルの灰皿を持ったまま(被告人の)胸倉を掴みました」

 証人は「おまえいい加減にしろ」と海老蔵に詰め寄る。(すると)「海老蔵さんが(私の)鼻の下あたりをめがけ、何もいわずにチョーパンしてきました」

 検察官が、「チョーパンは頭突きのこと」と説明し、それほどすごい衝撃があったのかと問う。

「ボクシングのフラッシュダウンみたいな。拳と同じくらいでした」

 アテネ、北京両オリンピック男子柔道金メダリスト、内柴正人被告の〈準強姦罪〉初公判──。傍聴席の視界をさえぎる衝立の奥で、防犯カメラの映像再生を操作する音が聞こえている。「データーが重いんで」と手間取る検察官の声も。

 内柴被告は直立不動の姿勢で、被告人席の小型モニターにじっと視線を向けている。再生が始まった。だが、傍聴席に映像は流れない。代わりに、女性の笑い声が聞こえる。「キャハキャハ」ひびく。傍聴席に、しわぶきも、息を飲む音もない。「キャハキャハ」また「キャハキャハ」。

 つづいて、検察官は女被害者の友人たちの供述調書を読む。「部屋で寝ていたら被害者(A子さん)が来ました。目を真っ赤にして『うち、やられたわ』といいました」だが、対する弁護人は「(A子とは)合意の上だった」と申し立てる。「被害者は、性的興奮からあえぎ声をあげていました」廊下から部屋のドアがノックされ、「(内柴被告人は)性交を途中でやめ」「また性交を再開した」。

 翌日のバスの中で(A子は)友人に「『めちゃへたやったんやけどな』などと苦笑して話しました」と、むきだしである。

 もうひとつ、英国人女性殺害・市橋達也被告初公判(千葉地裁)の傍聴席もリアルだった。市橋の使ったコンドームなどの映像がモニターに映しだされた。

 最近の法廷は、機器を使って生き生きと審理していく。コンドーム1個についていた精子のDNA型が、市橋被告のものと一致した。また、被害女性の細胞もついていたと、映像を示しながら検察官が告げる。強姦のコンドームである。傍聴席の被害者の母が、両目に手、指を押し当てる。震えが止まらない。

 検察はさらに殺害現場の遺留物を映しだしながら、説明していく。

 被害者の髪、粘着テープ……廷内に、凄惨が拡がる。母ばかりか父も嗚咽をこらえる。傍聴席が涙することは多い。

 秋葉原で無差別に7人を殺害した加藤智大の公判──。

 現場に遭遇した人物が証言に立った。多くの証人が加藤被告とのあいだにガード板を要求したが、この人は堂々と姿を現わし、一瞬、傍聴席にどよめきが起きた。

 血まみれの人が仆(たお)れている脇で、男(加藤)がダガーナイフを突きつけてきた。周りは死者、負傷者の血の海で、大勢が叫びをあげ、男は返り血を浴びて走りまわっている。パトカーはまだ来ない。白昼の修羅だった。

 そしてその場面を見い出して、この証人は静かに泣き声をあげた。私はなにもできなかった。なぜ勇気がなかったのか。ひとりも助けられず、その場にいた自分は何をやっていたのかと。

「現場にはあの時以来、行ってなかったんですが、今日、ここに来る前に、現場に……(泣き崩れる)あんだけの人を助けられなかったお詫びを、自分なりにしてきたつもりで」

 傍聴席にすすり泣きが拡がった。

※週刊ポスト2013年7月5日号

関連記事

トピックス

小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
新体操フェアリージャパンのパワハラ問題 日本体操協会「第三者機関による評価報告」が“非公表”の不可解 スポーツ庁も「一般論として外部への公表をするよう示してきた」と指摘
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
代理人・バレロ氏(右)には大谷翔平も信頼を寄せている(時事通信フォト)
大谷翔平が巻き込まれた「豪華ハワイ別荘」訴訟トラブル ビッグビジネスに走る代理人・バレロ氏の“魂胆”と大谷が“絶大なる信頼”を置く理由
週刊ポスト
お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
NEWSポストセブン