ビジネス

企業が注力するドラマ仕立てCM 視聴者を検索に誘導する効果

 コマーシャルの世界も日々進化している。最近、とみに「ドラマ」が多くなったと感じる人が多いのではないだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 ソフトバンクの「白戸家」CMで、完全に定着した観のある「連続ドラマ」CM手法。ライバルのNTTドコモも「ドコモ田家」で追随し、ファミリー話を展開中です。が、こっちの評判は今一つ盛り上がらない気配。

「白い犬の方が面白い」。6月18日のNTTドコモ株主総会では、株主からダメ出しを食らったとか。それに対して坪内和人副社長は「『白い犬に食われているが、精一杯がんばっている。ドコモダケが人になったのも賛否あったが、ご理解いただきたい』と釈明」。(J-CASTニュース 2013/6/20 )

 白戸家とドコモ田家、どちらがごひいきかはさておいて、株主総会でドラマCMが俎上に。それほど注目されているとすれば、たいしたものです。

 そして、最近のドラマCMはさらに深化し「凝った演出」が目に付きます。たった15秒間に映画のワンシーンと見まがうような細部まで作り込んだ画面、ゴージャスなキャスティング。

 その一例が、緊迫した裁判シーンが印象的な、ダイハツ「新ムーブ」のCM。熱弁をふるう弁護士の役所広司、裁判官の八嶋智人、訳ありの女・鈴木京香……。ヴィヴァルディのバイオリンが鳴り響き、緊迫したやりとりが法廷で繰り広げられる。

 まさしく、ドラマ世界そのもの。

 ゴージャスといえば、サントリーの「オランジーナ」のCMもあなどれません。世界的俳優のリチャード・ギアを「フランスの寅さん」に見立ててしまう跳躍ぶり。脱帽です。

 でもこのCM、いくら見ても肝心の炭酸飲料水の味なんて、わかんない。商品を直接語らない。ただ、なんともいえない空気感、「ムッシュ寅さん」のペーソスぶりを伝えようとしているようです。

 こうしたドラマ的CMは、視聴者の感情が刺激されることはあっても、商品についての理解がさほど進むわけではありません。むしろ、「商品の詳細は伝わらなくていい」というCM制作側の意識すら、透けて見えるような。昔のCMなら、考えられなかったことでしょう。

 そういえば、トヨタの新しいCM「TOYOTOWN」シリーズも実に凝った作りのドラマ仕立て。中央に大きな木が生えている「街」。顔ぶれは堺雅人に満島ひかり、笑福亭鶴瓶、反町隆史、佐藤浩市、妻夫木聡、前田敦子……さまざまな人が住んでいる。ガレージにはそれぞれ違う車がとまっている。それがどんな「街」なのか、どんな人々なのか。ディテイルはまだよくわからない。けれど、印象に強く残る。

 そうです。ドラマ仕立てCMは、「人々の印象に残る」ということこそ、最大のねらいでありポイント。消費者の記憶にしっかりと、「なにか」を刻みつけること。ただぼっと見てもらうのでなくて、とにかく記憶に刻んでもらう。記憶に残ってさえくれれば、「あとはウエッブで」「詳細はホームページで」と、頼まなくても消費者が自発的に検索してくれるから。そんなスマホ・ウエブ時代の変化がCM作りに影響を与えているのかもしれません。

 でもなぜ、ドラマ仕立てにすると印象に残りやすいのでしょう? なぜ、記憶に刻みこまれやすいのでしょう?

「物語」の語源を見てみると--「ものがたり」の「もの」とは、「鬼」や「霊」など不思議な霊力をも持つ言葉(「語源由来辞典」)だそうです。「物語」には、「説明」や「話」を超えた力が潜んでいる。ストーリーが展開し、役者がキャラクターをしっかりと演じた時、商品情報を超えた「もの」=霊力がそこに備わってくる、ということかもしれません。

 そして何よりも、ドラマには「展開」があります。「次」がある。断片的情報ばかりが溢れる時代に、ドラマ仕立てCMは視聴者を「次」のドラマへ、あるいはネット検索へ、そして販売店へと引っ張っていってくれる、優れた宣伝手法なのかもしれません。

関連記事

トピックス

真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
国内統計史上最高気温となる41.8度を観測した群馬県伊勢崎市。写真は42度を示す伊勢崎駅前の温度計。8月5日(時事通信フォト)
《猛暑を喜ぶ人たちと嘆く人たち》「観測史上最高気温」の地では観光客増加への期待 ”お年寄りの原宿”では衣料品店が頭を抱える、立地により”格差”が出ているショッピングモールも
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に音楽ユニット「girl next door」の千紗と結婚した結婚した北島康介
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
二階堂ふみとメイプル超合金・カズレーザーが結婚
二階堂ふみ&カズレーザーは“推し婚”ではなく“押し婚”、山田美保子さんが分析 沖縄県出身女性芸能人との共通点も
女性セブン
山下美夢有(左)の弟・勝将は昨年の男子プロテストを通過
《山下美夢有が全英女子オープンで初優勝》弟・勝将は男子ゴルフ界のホープで “姉以上”の期待度 「身長162cmと小柄だが海外勢にもパワー負けしていない」の評価
週刊ポスト
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《北島康介に不倫報道》元ガルネク・千紗、直近は「マスク姿で元気がなさそう…」スイミングスクールの保護者が目撃
NEWSポストセブン
娘たちとの関係に悩まれる紀子さま(2025年6月、東京・港区。撮影/JMPA)
《眞子さんは出席拒否の見込み》紀子さま、悠仁さま成年式を控えて深まる憂慮 寄り添い合う雅子さまと愛子さまの姿に“焦り”が募る状況、“30度”への違和感指摘する声も
女性セブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
「ローションに溶かして…」レーサム元会長が法廷で語った“薬物漬けパーティー”のきっかけ「ホテルに呼んだ女性に勧められた」【懲役2年、執行猶予4年】
NEWSポストセブン