ライフ

ピラフにトンカツで「トルコライス」国名と起源めぐり論争も

トルコライスは日本発祥の洋食

 長崎のご当地グルメで有名な「トルコライス」の名称が揺れている。豚肉を食べないイスラム世界でトンカツがご飯に載った「トルコ」ライスはあり得ないからだ。しかしトルコライスは国のトルコと本当に関係あるのだろうか? 食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 トルコライスの周辺が騒がしい。きっかけは、今年、全日本司厨士協会の関係者がトルコを親善訪問した際、トルコ料理人・シェフ連盟との間で「両国の食文化の発展に寄与する」とした国際料理有効親善宣言書に調印したときのこと。会食の席で、日本側が「トルコライス」を紹介したところ、イスラム圏のトルコにはない料理だと指摘を受けたことが発端だという。

 しかしそもそも「トルコライス」は日本発祥の食べ物だ。ピラフにナポリタンスパゲティ、そしてドミグラスソースのかかったトンカツという3種が定番とされる。もっとも実際、長崎の洋食店では「米、パスタ、肉魚系タンパク質」という組み合わせでさえあれば、あとは店の裁量次第というメニューでもある。トンカツの代わりにハンバーグを投入して、「ハンバーグトルコライス」とするのは洋食店での定番メニュー。ステーキが代わりに入れば「ステーキトルコ」、エビフライや帆立のフライなら「シーフードトルコ」といった具合だ。ピラフやスパゲティの味つけもあまたある。

「トルコライス」の起源は諸説ある。昭和30年代まで長崎市内にあったとされるレストラン「トルコ」の名称を起源とする説は店やメニューの存在が不確かだが、まだ納得できる要素は多い。他の説は、フランス語で国旗の三色旗を意味する「トリコロール」から変化したという説。また「ピラフが中国を、パスタがヨーロッパを指す。トッピングのトンカツが両者の中央に位置するということから、『トルコ』の名を冠した」という説もある。

 こうした料理の起源は、諸説あるのが当たり前となっている。とりわけ昭和30~40年代生まれの店やメニューなどの「元祖」「本家」問題は、証拠を伴って実証するのが難しい。だが、トルコライスにおける上記の発祥説は強引にすぎる。

 現在もっとも有力なのは、トルコを発祥とする「ピラフ」をベースに組み立てたメニューだから「トルコライス」という説だ。現在も長崎で「トルコ風ライス」を供するレストランの先代が昭和30年代、神戸に勤務していた頃に考案し、その後長崎でレストランを開店させた。その「トルコ風ライス」が「トルコライス」の原型となったという説だ。実際、神戸にも「トルコライス」は存在することなどからも、この説の確度は高い。

 日本の食は各国の食文化をどん欲に取り込んできた。われわれが日常で口にする食べ物や食材も海外から入ってきたものは「フランスパン(バゲット)」「支那そば(ラーメン)」「メリケン粉(小麦粉)」「朝鮮漬け(キムチ)」とアレンジを加えて呼ばれていた。「ナポリタン」のようにイタリアには存在しないものの、日本人に絶大に愛されているメニューもある。

 トルコライス然り。地元で50年以上親しまれてきたオリジナルメニューならば、「本場」に承認を求めなくとも、胸を張って「日本独自の『トルコライス』」「トルコにはないけど『トルコライス』」と言い切ればいいのではないか。長崎とそこに住まう人たちは、間違いなく「トルコライス」を世界一愛しているのだから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン