国内

北海道で密漁“黒いあまちゃん”「パクられたことないです」

 アワビ、ウニ、カニといった高級海産物の“密漁”が、暴力団の巨大シノギとなっている──。「食の合法性」を問題視してこなかったこの国の現実を、フリーライターの鈴木智彦氏が鋭く突きつける。

 * * *
 雨は昼過ぎに止んだ。風はない。凪だ。漁港の堤防から海をチェックしていたら、暴力団幹部から連絡が入った。

「海の濁りはちょっと残ってるけど、今日は仕事すると思うよ。出かけてみたらいい」

 ホテルに戻り、海沿いの釣具店で買っておいた竿とリールを車に積み、ガラガラの国道を走って函館を抜けた。待ち合わせ場所のパーキングには午後6時に着いた。一番奥に2台のハイエースとオデッセイ、eKワゴンが駐まっている。

「密漁団は一目で分かります。独特の匂いがするんです。具体的に口では説明しにくいけど、意識して見てたら素人でも分かる。あたりの様子をずっと気にしてますから」(海上保安庁関係者)

 密漁団に言わせれば、反対に「カップルを気取って内偵に来ても海保は一発で分かる」らしいが、確かにどうみても長距離ドライブの休憩とは空気が違う。総勢9人、男ばかりだ。それぞれの車の運転手は、厳つい暴力団風というより、爽やかなスポーツマンタイプだった。それでも独特の匂いは漂ってくる。

 このチームの取材にこだわったのには理由がある。彼らは唯一無二、全国でもおそらくたったひとつしかない密漁団なのだ。いや、正確にいえば密漁団とは違う。発電所の海には漁業権が設定されていないからだ。彼らは北海道にある火力発電所の近海を、密漁のナワバリとする、特殊な“黒いあまちゃん”なのだ。

 電力会社は発電所の建設と同時に、近隣の漁師に保証金を支払い、かわりに漁師は漁業権を放棄する。漁業権が宙に浮いた状態のため、発電所近くの海では、その他の漁業関連法案を厳守している限り、誰がなにを獲っても密漁にならない。

 後日、リーダーが電話取材に応じてくれた。

「もう何年もやってるけど、一度もパクられたことないですね。海保だろうと警察だろうと、通報がいっても法的根拠がないからね。逮捕できないんだよ。北電(北海道電力)からの通報もあるらしいが、深夜まで密漁の監視はしてないから漁はできる。

 発電所の排熱で海が温かいから、餌のプランクトンがたくさんいるんだろう。誰にも荒らされてないから、でかいのがごっちゃりいる。警備が厳しい原発の海なんて、ウニが重なり黒いカタマリになっている。

 それに本音を言えば、排水口を塞いでしまう海産物は発電所にとってきっと迷惑だもん。内心、無料で掃除をしてくれてありがたいと感謝してるかもしれねぇ」

 真偽不明の理屈には無茶があるが、法律の盲点を突いた手口……漁業関係者にとって、彼らの存在自体がタブーらしい。

「発電所の周辺海域で、魚や貝などを獲っている者はいる。しかし、漁業権が設定されている海域内で放流された魚や貝がそのエリアに泳いでいくこともある。漁業者としてとても腹立たしい限りです。

 しかし、このことで規制をかけてもらいたいと叫んでも、何とかなるものではないと思います。この問題……本当に悩ましい問題で、(密漁の)パトロールをするとか、啓蒙活動には地道に取り組んでるんですが、どう頑張っても取り締まれない。

 この問題が報道によって大きく取り上げられて表に出ると、行為を助長することに繋がりかねないので、心配しております。『獲っていいんだろ。違法じゃないんだろ』と主張され、発電所の海域にどんどん入って来られると……。心配しています」(北海道漁業協同組合連合会)

※週刊ポスト2013年10月4日号

関連記事

トピックス

出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じる稲垣吾郎
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演、稲垣吾郎インタビュー「これまでの舞台とは景色が違いました」 
女性セブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン