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2013.10.11 07:00  週刊ポスト

前田吟 渥美清から26年間で一度も演技について助言されず

 映画『男はつらいよ』で寅さんの妹さくらの夫、博を演じてきた前田吟が語る、寅さんこと故・渥美清氏との思い出を映画史・時代劇研究家の春日太一氏が聞いた。

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 前田吟の代表作といえば、多くの方が『男はつらいよ』シリーズを思い浮かべることだろう。1969年から1995年まで続いた全48作にも及ぶ国民的作品で、主人公・車寅次郎(渥美清)の妹・さくら(倍賞千恵子)と結婚する博として出演し続けている。

 寅さんを演じてきた渥美清とは26年に及ぶ付き合いとなったが、撮影現場で演技について助言を受けたことは一度もなかったという。

「俳優ってアドバイスはしないものです。渥美さんにも極意を聞きたかったんだけどね。ただ、哲学者みたいに『吟ちゃん、スーパーマンは飛べないんだよ』って言うことはありました。要は謎かけなんです。

 僕の解釈としては、『映画の中のスーパーマンは空を飛べるけど、スーパーマンを演じる役者は空を飛べない』ということ。役者は全てを自分で表現するしかない。寅さんはみんなを笑わせて劇場で大歓声を受けているけど、あれは役柄としての『寅さん』であって、『俺自身はあんなに人を笑わせたり楽しませたりできないんだよ』と渥美さんは言いたかったんじゃないかな。

 先輩でアドバイスをくださったのは、小林桂樹さんだけですね。よくお酒を飲んだのですが、その時に『演技というのは、ホテルの部屋の鍵穴から見られているようなもんだ』と教わりました。あまり後ろばかり向いていると、お客さんはもう嫌になって見てくれなくなる。どこかでチラッと『俺はいるぞ』という顔を見せないと。ですから、あまり流れるような演技ばかりしていてもダメなんですよ。

 それで『赤い』シリーズなどでは思い切った悪役をやりました。髭をつけたりオールバックにしたり。『男はつらいよ』で人間的に素晴らしい役を演じてきたけど、その世界を嫌いな人も絶対にいる。リアリズムだけじゃないそういう劇画っぽい芝居もしないと、お客さんに飽きられると思ったんですよ」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年10月11日号

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