ビジネス

安倍首相はアナウンス効果で景気浮揚図るだけと大前研一分析

 9月8日にブエノスアイレスで行なわれたIOC総会。その場で安倍晋三首相は、福島原発問題は「アンダー・コントロール」と自信を持って言い切った。だが、その後も汚染水漏れ問題は解決していない。安倍首相とは一体どんな人物なのか。大前研一氏が解説する。

 * * *
 昨年末の発足から3四半期が過ぎ、“安倍政権の本質”が透けて見えてきた、と私は思う。第一は「証拠もないのに言い切る」という安倍首相の傾向だ。東京電力・福島第一原子力発電所の汚染水漏出問題は、その典型だ。

 安倍首相は五輪招致の最終プレゼンテーションで、汚染水について「完全にコントロールされています」と世界に宣言した。しかし、あれはコントロールできない。なぜなら、毎日400トンも湧き出てくる地下水をどうやって放射性核分裂生成物と接触しないようにするかという問題は「直ちに何とかしなければならない」が、それを抜本的に解決する工事を行なうには放射線レベルが高すぎて「2~3年は無理」だからである。

 しかも、港湾内は外洋と完全に仕切られておらず、汚染水を封じ込める構造にはなっていない。その改良工事計画は出ているが、完成は2年後という大工事だ。

 つまり、実際の状況は「アンダー・コントロール」ではなく、「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」なのに、平気で言い切って、省みることがないのだ。東電の廣瀬直己社長が「私も安倍さんと同じ理解です」と、直接自分の意見を言うのを避けたほどである。

 安倍首相は経済問題も明るく言う。私が提唱している「心理経済学」の観点からすれば、国民の心理を明るくするのは景気浮揚につながるから良いことだが、日本経済には本質的で構造的な問題がある。

 2020年の東京五輪にしても、新聞やテレビが「3兆円の経済効果」と囃し立て、多くの人が「これで景気が良くなる」と期待しているが、五輪開催で景気が良くなるのは途上国の現象だ。今の日本のような成熟国では、競技場や選手村、交通網などを整備する公共工事に税金を注ぎ込んだ分だけの経済効果しかない。要するに安倍首相は、明るい話をして、そのアナウンス効果で景気浮揚を図っているにすぎないのだ。

※週刊ポスト2013年10月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
PTSDについて大学で講義も行っている渡邊渚さん(本人提供)
渡邊渚さんが憤る“性暴力”問題「加害者は呼吸をするように嘘をつき、都合のいい解釈を繰り広げる」 性暴力と恋愛の区別すらできない加害者や擁護者への失望【独占手記】
週刊ポスト