スポーツ

ドラフト4回拒否した中日選手 5回目で入団し新人王を獲得

 24日にドラフト会議が開催され、多くの新人たちがプロ野球界の門を叩くことになる。これまでも多くのドラマを生んできたドラフトにおいて、大変珍しい記録を持つ元・中日の藤沢公也について、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。

 * * *
 日本プロ野球でドラフト制度が誕生したのは1965年。それから約半世紀の間、仕組みは何度も変更されてきた。かつては球団ごとの指名の人数制限がないなど、比較的規則が緩い時代があり、そのため指名しても選手が入団する見込みはないが、とりあえず指名だけはしておこうという例もあった。

 そうして指名の回数ばかりが増えていったのが、元中日の藤沢公也だ。江川卓がドラフト1位で3回指名されて2回拒否したのは有名な話だが、藤沢はそれを上回る「5回指名、4回拒否」という記録を持っている。最初は1969年だ。八幡浜高(愛媛)で3番・エースとして活躍した藤沢は、ロッテから3位指名を受けるが、拒否して社会人チーム・日鉱佐賀関に進む。

 だが彼の実力を認めたプロは、その後も藤沢に“ラブコール”を送り続けた。1971年にはヤクルトから11位、1973年には近鉄から4位指名を受けるがともに拒否。1976年、日本ハムが2位指名した時は契約寸前までいったが、球団が契約金の値下げを申し出たことに「誠意がない」と反発。再び入団を拒否する。「この時点でもう指名はないと思った」と言う藤沢だったが、翌1977年には中日から、なんと1位で指名された。

 さすがに藤沢は悩んだ。この時すでに26歳。職場結婚し、家庭もあった。安定した人生を続けるか、男の夢を叶えるのか。迷った末、藤沢は5度目にしてプロ入りを決める。 「最初に指名された時は、やっていける自信がなかった。でも社会人エースと言われる中で、プロでやってみたいと思うようになってきたんです。年齢的にも今しかないと思ったし……」

 藤沢は動機をこう語っていた。だが、いざプロに入ってみると、現実とのギャップにぶち当たった。「右の本格派」などともて囃された社会人エースの速球は、プロの前では“遅球”だった。ドラフト同期の右腕・小松辰雄が150kmを超すスピードボールを投げる一方、藤沢の140km台前半のスピードでは太刀打ち出来るわけがない。「4度もプロを蹴った男がどんな投球をするのか」と世間が注目する中、本人は落ち込んだ。

 そんな時、投手コーチだった稲尾和久が「ならばもっと遅い球を投げてみるか」とパームボールの投げ方を伝授してくれた。5本の指を縫い目にかけて、回転を少なくするパームをマスターするため、四六時中研究してキャンプで実行。それが面白いように決まり始め、1年目に13勝を上げて新人王になった。しかしその後は故障に泣かされ、結局実働6年。27勝35敗1Sの記録が残っている。

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン