スポーツ

楽天日本一の深イイ話 ファンと選手をつないだサインボール 

楽天球団スタッフが書いていたメッセージ

 楽天イーグルス優勝の瞬間、仙台のテレビ視聴率が60.4%をマークしていたことが明らかになった。「おらほ(私たち)のチーム」と地域に愛される球団となった基礎は9シーズン前にある。フリーライターの神田憲行氏が語る。

 * * *
 今年の日本シリーズは久々に野球人気の復活を印象づけたではないだろうか。しかし楽天は強くなってから突然人気が出たわけではない。チーム発足時から選手・球団スタッフたちの地道な努力がある。

 球団が出来たばかりのころ、私はルポを書くため毎月仙台に行って取材を続けていた。今回の優勝で改めて当時の自分の取材を振り返り、自分でも忘れていた1枚の写真をハードディスクの中から発見した。

 新球を入れた白い箱の上に文章が書かれている。

《残り試合も少なくなりましたが、いまだに満員のお客様に応援を頂いております。本日より、スタメンの選手のみではなく、ベンチ入りの選手・コーチの方々にも、投げ入れて頂けるように、ボールを多く用意しました。どんどん書いて投げて下さい!!》

 1回表の守備につく際、スターティングメンバーの選手はファンサービスとしてサインしたボールをスタンドに投げ込んでいく。これはスタメン出場の選手だけでなく、控えの選手やコーチにもそうしてほしい、という球団スタッフからのお知らせである。

 撮影日付を見ると、「2005年9月14日」とある。前の日に本拠地フルキャストスタジアム宮城(当時)で西武ライオンズに1対10で敗れ、90敗目を喫したばかりのことだ。当時の球団職員が語る。

「これはファンの方から『試合に出ていない選手も応援したいので、どうしたらいいのか』と相談があったのと、選手たちからも『もっとファンサービスしたい』という要請を受けて、現場の判断で始めたものです。たしかホームの残り10試合ぐらい毎試合やりました」

 実際にほとんどのベンチスタートの選手たちがこれに応じて、サインボールをスタンドに投げ込んだという。田尾監督の解任を予想する報道が溢れどん底の最下位を這い回っていた時期でも、ファンと選手たちはひとつのボールでつながっていた。

 応援してくれたのはファンだけではなかった。

 シーズン終盤、女性スタッフの発案でビジターチームの監督室に小さな花と「今年1年ありがとうございました。至らぬところがあったかと存じますが、来年もよろしくお願いします」と書いた手紙を置いた。ソフトバンクホークス戦のあと、そこに代わりに1枚の手紙が置かれてあった。

《1年間本当にありがとう。できたばっかりで大変だったかもしれないけれど、来年も頑張って下さい》

 王貞治監督直筆のお礼の手紙だった。

「まさか王さんからそのようなお返事をいただけるとは思いもしなかった。職員みんなで回し読みして感激しました」(前述の球団職員)

 寄せ集め集団と陰口も叩かれたが、真剣勝負の向こうに新設球団を暖かく見守るプロ野球人の姿もあった。

 球団ドラフト1期生で、現在は打撃補佐コーチを務める平石洋介氏は優勝に向けて疾走していく終盤、こんなことを話していた。

「突然いま強くなったんじゃない。9年間の歴史があるからこそ、今がある」

関連キーワード

関連記事

トピックス

麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
人気格闘技イベント「Breaking Down」に出場した格闘家のキム・ジェフン容疑者(35)が関税法違反などの疑いで逮捕、送検されていた(本人SNSより)
《3.5キロの“金メダル”密輸》全身タトゥーの巨漢…“元ヤクザ格闘家”キムジェフン容疑者の意外な素顔、犯行2か月前には〈娘のために一生懸命生きないと〉投稿も
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン