――萌えミリタリーが世界へ広がる可能性はあるのでしょうか?
浅井:海外でも尖ったオタクの人たちは日本の流行に乗ろうとするので、ガルパンや擬人化も大好きです。でも、大多数とは言えません。海外でメカの擬人化というと「機関車トーマス」や映画「カーズ」のように、メカに顔がそのままついているものが多いです。
爆撃機のB-29 を擬人化したアメリカのアニメがありますが、それを見るとB-29の機首に顔がついていて、翼が腕、尾部が足になっています。一家の設定になっているのですが、奥さんもまつ毛が長いだけで顔は機首についており、体は爆撃機のままなんです。日本人のようにバッチリと女の子にはしません。一般的なアメリカ人が軍艦を擬人化したら、舳先に顔を描くんじゃないでしょうか。
日本の美少女擬人化イラストは発達の極地にあります。同水準に近いのは台湾や韓国、中国くらいでしょうか。「日本海軍艦艇ガールズイラストレイテッド 戦艦・巡洋艦・駆逐艦編」で峯風型駆逐艦「波風」を描いていただいたA 士さんは台湾のイラストレーターさんです。終戦後に中華民国(台湾)へ引き渡された駆逐艦なので、じゃあご当地の人にとイラストをお願いしました。
――萌えミリタリーというと20~30 代男性がメインターゲットになるかと思いますが、他の世代に広がる可能性はあるのでしょうか?
浅井:もし「週刊少年ジャンプ」や日曜朝のアニメや特撮でミリタリーものが始まったら、劇的に変わるでしょうね。いつか、幼児向けに戦車や戦闘機ものの本を出したいと思っています。「はたらくくるまシリーズ」のような感じで、パトカーや消防車、建設機械などと同じように小さなころから親しんでもらいたいですね。ただ、子供のお父さんはいいとしても、お母さんが買うのを許してくれないかもしれませんが(笑)。
――新しくミリタリーに興味を持った人たちは、今後も好きでいてくれそうでしょうか?
浅井:それはやはりブームが去ったら減ってしまうと思います。さすがに「艦これ」ユーザーの150 万人がみんなミリタリーファンになるとは思っていません。ですが、「戦艦と巡洋艦と駆逐艦は違う」とか「戦艦大和以外にもたくさん軍艦があった」というように、軍艦などの基礎知識が、まったくミリタリーに興味がなかった層にも共有されたのはとてもありがたいです。
もし今の萌えミリタリーブームが去っても、軍艦や戦車の記憶は残っていると思います。5 年後、10 年後に「あのときゲームで遊んだな、アニメで見たな」と思い出して、ミリタリー関連のものを手に取ってくれるきっかけになってほしいと期待しています。もちろん、本音ではブームがずっと続いてくれるのが一番、嬉しいです(笑)。
●浅井太輔(あさい だいすけ)イカロス出版株式会社の季刊誌『MC☆あくしず』、『ミリタリー・クラシックス』副編集長。2005 年出版の『萌えよ! 戦車学校』をはじめ美少女とミリタリーを組み合わせたコンセプトの書籍の編集に数多くたずさわる。2006 年創刊の『MC☆あくしず』は萌えミリタリー雑誌の草分け的存在で、立ち上げから一貫して関わる。好きな艦娘は「神通」と「陸奥」。