日本人が頻繁に呼び合う名字。地域ごとに傾向があるのは実感している人も多いだろう。森岡浩氏(姓氏研究家)と考えてみた。各地方別にみてみよう。
【北海道】独特の名字が最も少ない。なぜなら北海道は、明治以降に屯田兵を送り込むことで急激に人口が増えたためだ。
「屯田兵の出身地は東北と北陸が多く、ついで四国。そのため『佐藤』『鈴木』など、東北と北陸に多い名字がよく見られる中に、四国の影響も感じられます」(森岡氏)
特徴的なものが「さいとう」だ。「さいとう」という名字には「斎藤(齋藤)」と「斉藤(齊藤)」がある。東日本では圧倒的に「斎藤」が多いが、新潟や四国ではほとんどが「斉藤」。この両地域からの移住者が多い北海道は、「斎藤」と「斉藤」が拮抗する地域となっている。
【東北】東北地方は特定の名字の集中度が高いのが特徴だ。ほかの地域では最も多い名字でも全体の人口の2%程度だが、秋田や山形では「佐藤」率がなんと7%に上る。「高橋」や「佐々木」「鈴木」なども3%を占める県がある。
【関東】「鈴木」が最多。次いで「高橋」「佐藤」「小林」が多く、「渡辺」「斎藤」「加藤」が続く。
「明治以降、東京には全国から人口が流入したことで、名字の特徴は薄くなりました。さらに戦後の宅地開発で拍車がかかり、移り住んで来た人口が多くなったのが理由と考えられます」(森岡氏)
【北陸】「田中」「山本」「吉田」「中村」など西日本に多い名字が中心となっているが、ベスト50までに独特の名字が少ない。その一方で、人の移動が少なかった富山県射水市は「飴」「魚」「桶」「菓子」「波」など、ユニークな名字が多いことで知られている。
【東海・甲信】人の行き来が多い東海道や中山道などの街道沿いで、名字の特徴が少ない。東海4県には「伊藤」「加藤」「鈴木」が多いが、静岡県西部は日本一の「鈴木」の集中地区。山に囲まれた長野県には“沢”がつく名字が多い。
【近畿】「山本」「田中」「中村」「吉田」といった地形をルーツとした名字が多い。西日本各地から人が流入しているため西日本に多い名字が集まっている。「平群」(へぐり)「蘇我」のような古代の名字が比較的多いのも、歴史の古い地域ならではの特徴。
【中国】「田中」「山本」が多い西日本型だが、中国山地一帯には「山根」、古代から栄えた出雲地方には「勝部」「野津」、吉備地方には「難波」(なんば)「妹尾」(せのお)など全国的には珍しい名字が多い。
【四国】四国山脈で南北が遮られているため、全域に共通する名字はほとんどなく、香川や愛媛では瀬戸内海を挟んだ対岸の岡山や広島と共通の名字が多い。愛媛県には越智一族をルーツとする全国の「越智」の半分以上が住み、高知県には「岡林」「公文」(くもん)「中平」といった独特の名字が多い。
【九州】近畿や中国と同傾向だが、宮崎県南部から鹿児島県にかけては“本”を“元”にしたり(例・山本→山元)、「竹之内」「山之内」のように“之”を入れる特徴がある。
元宮崎県知事の名字、「東国原」(ひがしこくばる)は宮崎と鹿児島の県境に集中しており、「西国原」(にしこくばる)もある。また、宮崎県で最も多い名字は「黒木」で、全国の「黒木」の約半数は宮崎に住んでいる。
【沖縄】本土とは全く違い、「比嘉」(ひが)を筆頭に「金城」(きんじょう)「大城」(おおしろ)「宮城」(みやぎ)「上原」「新垣」(あらかき)などと、沖縄の地名をルーツとする独特の名字がランキング上位を占める。
※週刊ポスト2014年1月17日号