もちろん、みんな常連。そのうちのひとり、広告制作会社OBだという60代男性が自作のCMソングを聴かせてくれた。それはこんな歌詞だった。
「料理、客層、美人の女将、多少の費えでほろ酔い気分、ここは天国、上谷商店」
少しの間、カウンターで立ち飲みをしてみると、なるほどここは天国だなあと実感できるだろう。
ひでちゃんが、店に来る客のすべてを、家族か気の置けない同級生のように扱ってくれるのが、この上なく気持ちがいい。
「現役当時この近くに勤めていて、帰りにいつもここに寄っていたんだ。その習慣が全然抜けない。でも、この年になって気持ちよう飲める場所があるっていうのは、幸せなことだね。ひでちゃんの魅力、そうだね、それがとても大きいと思うわ」(60代)
その数4~5種類とそれほど多くはないが、「母親か女房がこしらえたような、ふっと落ち着ける味」と評判の、女将手作りのつまみが、かなりいける。
「水を一滴も使わずに日本酒だけで煮込んだ、とり肝煮はいつも作り置きします。毎日ではないけれどかなりの頻度で作る粕汁も、おいしいですよ。自信作です」と、女将。
で飲めるカウンターが伸び、奥に5~6人で囲めるウイスキー樽が置かれている。そこで今夜も、仕事を終えたサラリーマン、セカンドキャリアを歩むそのOBらが、酒とつまみと女将の笑顔の中で、気持ちよさそうに揺れている。