現在、販売量はピークの1975年から3分の1に落ち込み、縮小傾向にある日本酒市場だが、これまでの歴史を振り返ると、時代によってブームとなる日本酒があったことがよくわかる。日本酒研究家・松崎晴雄氏の監修のもと、1960年代以降の日本酒ブームの系譜をたどってみよう。
【1960~70年代】「酔うために飲む」昭和の銘酒
時あたかも高度経済成長真っ只中。バリバリ働く昭和のモーレツ社員は、仕事が終われば味わうことなどそっちのけで酔うために飲んだ。家に帰れば晩酌が日課となり、酒屋は一升瓶が入ったケースを各家庭に届けた。
当時は級別制度で特級、一級、二級の3段階に区分けされ、一般家庭では飲み応えのある一級と二級が好まれた。辛口をアピールした本格派の「剣菱」「菊正宗」「白鷹」(すべて兵庫)が飛ぶように売れ、文化人やマニアに愛された樽酒の「樽平」(山形)が大ブレイクした。
【1980年代】日本中を席巻した地酒ブーム
1973年のオイルショック以降、低成長時代に突入した日本経済。世の中が落ち着くに従い、醸造アルコールで3倍に増量した三増酒などへの不信が本物志向を刺激し、本醸造や純米酒が登場。「ディスカバー・ジャパン」をコンセプトに当時の国鉄が大々的にキャンペーンを展開すると、地方の地酒が注目されるようになった。とくに希少価値の高い銘柄は・幻の酒”と呼ばれてもてはやされた。
「越乃寒梅」(新潟)を筆頭に、「一ノ蔵」「浦霞」(ともに宮城)、「梅錦」(愛媛)などが地酒ブームの花形となった。