スポーツ

三重高校・中村好治監督 「60歳の復活」が教えてくれたもの

 第96回全国高等学校野球選手権大会は大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた。県勢59年ぶりの決勝戦進出となった三重高校は惜しくも敗れたが、躍進のもととなったのは、60歳の中村好治監督の手腕だ。スポットライトを当てた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 三重高校は5月の春季東海地区大会で優勝していたものの、昨夏も今春の甲子園も初戦で敗退しており、率直なところ大会前は優勝候補の下馬評には登っていなかった。それが決勝戦にコマを進めたのは、主将の長野勇斗が、

「三重は1勝がこれまで遠かったけれど、1勝してからは選手が成長して波に乗れました」

 と振り返る通り、中村のもと大会中に選手のポテンシャルが開花したからである。中村は今年4月に同校の監督に就任するや、打撃練習で審判を付けてストライクとボールの見極めを選手に徹底させるなど、練習内容を一変した。準決勝の日本文理戦では、バッテリーの配球を読んで作戦を次々と的中させ、抜擢した選手が活躍するなど采配も冴えた。

 選手にも愛情をたっぷり注いだ。毎日打撃投手を買って出て、エース今井重太朗の身体を自らマッサージしていた。

「打撃投手は監督に就任されてから毎日ですよ。ランニングも一緒にしています。もうそんな若い歳とはいえないのに、本当に頭が下がりますよ」(中澤良文部長)

 取材をしていて、私は「ああ、変わっていないな」と12年前のエピソードを想い出していた。2002年の第84回大会、中村は日章学園(宮崎代表)の監督として甲子園に出場した。日章学園には瀬間仲ノルベルトというブラジルからの留学生がいた。中村は、言葉もわからず野球部の独特な習慣に戸惑い、ときには先輩と喧嘩になりそうな瀬間仲の親代わりとなった。当時高校3年生だった瀬間仲は、

「打撃練習では僕の手本で打って見せてくれたら、おじさんなのに僕より遠くに飛ばすからびっくりしました。最初は理由がわからなかったけれど、だんだん肘の位置がポイントだとわかりました。中村先生は僕の日本のお父さんです」

 来日したばかりのこと、瀬間仲が一度、中村を怒らせたことがある。相手に死球を与えたのに、一塁手の瀬間仲が打者走者に帽子を取って礼をしなかったからだ。ブラジルにそういう習慣はなかった。

「僕が日本の高校野球で学んだいちばんのことです。ブラジルの子どもたちも絶対そうした方がいい」

 どうして細やかにそこまで選手に気配りするのか。原点は中村の母校・浪商高校時代にあった。

「私のころの浪商は野球部員が1学年で180人くらいいたんですよ。もう誰が誰やらわからない。そんなときに監督さんに少しでも声を掛けてもらったら、ものすごい嬉しかった。だから自分も選手に気配りしてやりたい。三重の野球部員は100人いるんですが、毎日全員に声を掛けています」

 中村は苦労人だ。

「私ね、会社が6つ変わっているんですよ」

 と笑う。社会人野球の選手・監督として3つ、日章学園の監督、三重中京大学の監督、そして現在。三重中京大では則本昴大投手を育てたが、学校が閉校になった。住む場所だけでも神戸、宮崎、三重など転々としている。ひとつの学校にどっしり腰を落ち着けた「大監督」ではない。

「いろんな人との出会いもあり、苦労もありました。でもいろんな経験を積んだことで、指導の引き出しはたくさんできましたよ」

関連キーワード

トピックス

岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン