国内

門田隆将 朝日新聞「吉田調書」報道の罪 全文掲載【2/6】

 朝日新聞社長による謝罪会見へつながった「吉田調書」問題。先鞭をつけたのは、週刊ポスト6月20日号(6月9日発売)が掲載したジャーナリスト・門田隆将氏によるレポート〈朝日新聞「吉田調書」スクープは従軍慰安婦虚報と同じだ〉だった。門田氏は、福島第一原発所長だった吉田昌郎氏を生前、唯一インタビューしたジャーナリストである。朝日新聞が書いた「所長命令に違反 原発撤退」はあり得ないと主張した門田氏に対し、朝日はどう答えていたか。改めて、全文を紹介する。

 * * *
(門田隆将 朝日新聞「吉田調書」報道の罪 全文掲載【1/6】のつづき)

 故・吉田昌郎氏は大震災の時、1号機から6号機までの六つの原子炉を預かる福島第一原発の所長だった。

 刻々と悪化する事態に対処するため、免震重要棟の緊急時対策室に陣取り、時に官邸、また時には東電本店とも激しくやりあい、昼夜の別なく、現場への指示を出しつづけた。

 海水注入中止といった官邸サイドと東電本店からの命令を拒否して冷却のための海水注入を続行させるなど、部下を鼓舞して事故と闘った人物である。体力、知力、そして胆力を含め、あらゆる“人間力”を発揮して「日本を土壇場で救った一人」と言えるだろう。

 昨年七月、食道癌のために吉田氏は五十八歳で亡くなった。強烈なストレスの中で過酷な事故と闘い、日本を救うという自身の使命を果たした上で、事故から851日目に“戦死”したのである。

 私はその吉田氏が死後、特定のメディアによって貶められていることを哀しく思う。しかも、それが事実とは程遠いものだけに、余計、虚しいのである。自分の意図に反して貶められた吉田氏とご遺族の思いを想像すると、本当に胸が痛む。

 私は朝日の記事を読みながら吉田氏に取材した時のことを思い出した。吉田氏は取材に答えながら、自分の記憶違いや時系列的な混同があることを懸念し、私にほかの方々の取材によって事実関係を確認してくれるように何度も頼んだ。それに従って、私は多くの関係者に取材をおこなった。

 今回、朝日新聞が報じている政府事故調の手になる「吉田調書」は、長時間の聴き取りに応じたものの、吉田氏が第三者への公表を固く「拒んだ」ものである。

 理由は明快だ。自分の勘違いによって「事実と違うこと」が定着することへの危惧があったからである。そして、吉田氏は以下のような上申書を提出している。

〈自分の記憶に基づいて率直に事実関係を申し上げましたが、時間の経過に伴う記憶の薄れ、様々な事象に立て続けに対処せざるを得なかったことによる記憶の混同等によって、事実を誤認してお話している部分もあるのではないかと思います〉

 そして、話の内容のすべてが、〈あたかも事実であったかのようにして一人歩き〉しないかどうかを懸念し、それを理由に〈第三者に向けて公表されること〉を強く拒絶したのだ。昼であるか夜であるかもわからない、あの過酷な状況の中で、吉田氏は記憶違いや勘違いがあることを自覚し、そのことを憂慮していたのである。

 しかし、朝日は、その吉田氏本人の意向を無視し、調書に残されていた吉田氏の“言葉尻”を捉え、事実とはまったく「逆」の結論に導く記事を掲載している。

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン