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【書評】幕末の安中藩で行われた侍の「29kmマラソン」を小説化

【書評】『幕末まらそん侍』土橋章宏/角川春樹事務所/1404円

【評者】内田和浩(歴史研究家)

 時は幕末の安政2年(1855)、安中(群馬県安中市)3万石の藩主・板倉勝明は、50才以下の藩士98名に対し、安中城より碓氷峠の熊野神社までの七里余(約29km)を走ることを命じた。ここから物語は始まる。

 この催しは史実である。背景には嘉永6年(1853)の黒船来航があった。日本中が動揺するなかで、安中藩主の板倉勝明は交通の要衝・碓氷峠の関所を預かる身として、有事に備えるために藩士の鍛錬を実行したのだった。これは「安政の遠足」と呼ばれ、現在、同市は「日本のマラソン発祥の地」と称して、毎年5月第2日曜日に一般参加による「侍マラソン」を開催している。

 本作は5編の短編から構成されている。第1章「遠足」は、黒木と片桐という2人の若い藩士が、この遠足で勝った褒美として藩主の姫をもらおうと競争に挑む。律義者の黒木に対して、お調子者の片桐はルール破りの駕籠や馬を使って黒木に勝とうとする。しかし、勝負は意外な結末に…。

 第2章「逢引き」は、石井という藩士が主人公。江戸での修業時代に思いを寄せていた女が安中を訪ねてきて、石井に「一緒に江戸で暮らしたい」と言い寄る。しかし石井には妻がいる。悩んだあげく石井は遠足を利用して脱藩し、女と駆け落ちすることを決意。遠足の当日、石井は仲間たちをうまくまいて1人になり、女の待つ場所へと急ぐ。果たして──。

 各短編の主人公たちは、最後の5章で一堂に会して安中藩を揺るがす大事件に立ち向かう。読み終えると、ひとつの長編として完結しているところは、まさに映像向きの見事な構成だ。いずれ、スクリーンで見られることを期待したい。

※女性セブン2014年9月25日号

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