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桐野夏生さん 過酷な現実生きる少女達を通して現代の孤独描く

 新著『夜また夜の深い夜』(幻冬舎)を上梓した桐野夏生さん(63才)。日本社会のダークサイドをえぐってきた桐野作品には珍しく、今回は海外、イタリアが舞台だ。

「『東京島』という小説がイタリア語に翻訳され、文学祭に招待された時、ナポリ出身の翻訳者にナポリの地下街やスラム地区を案内してもらったのが面白くて。最初に場所ありきですね」(桐野さん・以下「」内同)

 主人公はナポリの丘の上で母親と暮らす18才のマイコ。母親は何かから逃げており、転々と住まいを変え、名前も、顔さえも整形で変えてしまう。マイコはろくに学校にも通っていない。

 母親は自分の秘密を明かさない。家を飛び出したマイコは、リベリア出身のエリスと旧ソ連出身のアナと知り合う。自分が育った特殊な環境がかすむほど過酷な場所から命がけで這い出てきた2人組と一緒に、マイコは悪事に手を染めることも辞さず、生き延びようと奮闘する。

「若い女が主人公の、ピカレスク(悪漢)小説です。人間って、かけられた圧が強ければ強いほど、生きたいという気持ちも強くなるんじゃないかと思うんです。なんでこうなんだろうって論理的に考えるし、逆境をはね返す力も獲得できる」

 隔離され、自分に関する情報をいっさい与えられず育ったマイコが新しい世界へ踏み出すきっかけになるのが、日本のマンガだ。

「マンガから入る日本は結構、おめでたくて、不思議な国に見えるかもしれません。膨大な情報量のマンガでいろいろ勉強したうえで、マイコは現実の世界はもっと残酷だと知ることになります」

 小説は2部構成で、1部はマイコからの手紙、2部はマイコの手記として書かれている。マイコが「もうひとりの自分」を勝手に投影し、手紙の宛先に選んだ「七海」は、連合赤軍のリーダー重信房子の娘、メイを思わせる。

「重信房子に娘がいると知った時、ああ、そういうふうにつながっていてよかった、と私は感じたんですね。日本に帰って逮捕されたのも、娘に国籍を与えて彼女自身の人生を送ってほしいと思ったからなのかなと想像しました」

 サバイバルを続けるなかで、マイコは想像とかけ離れた母の人生を知ることになる。この小説は、母と娘の物語でもあり、マイコの母親への思いも折々に姿を変えていく。

「夜」が3つ並ぶ印象的なタイトルは、ファシズムと戦ったスペインの詩人、ロルカの詩からとった。

「私が思う夜は、何か逃れられないもの。逃れられないけど、優しい時も、怖い時もある。本当の闇を知らないと光にもたどり着けない、そういうイメージですね」

※女性セブン2014年11月20日号

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