ビジネス

外食チェーン「ちょい飲み」ブームの背景を森永卓郎氏が分析

「ちょい飲み」ブームについて語る森永卓郎氏

「安く飲むなら居酒屋」という常識が変わりつつある。吉野家を居酒屋風に改装した「吉呑み」が快進撃を続けているのをはじめ、これまで食事をする場所だった外食チェーンが「ちょい飲み」に続々参戦している。

 平日の夜7時、「餃子の王将 新橋駅前店」には10人近くのサラリーマンが列を作っていた。店に入るとビールとおかず1~2品を頼み、30分としないうちに席を立つ。こうした「ちょい飲み」がなぜブームなのか。経済アナリスト・森永卓郎氏が大繁盛の店内で分析した。

 * * *
 餃子の王将の東日本の店舗では小皿サイズの「ジャストサイズメニュー」を打ち出しています。ほとんどが1品100~200円台で、生ビール1杯(496円=税込み、以下同)に加えて4~5品頼んでも1000円台に収まります。

 1人か多くても2~3人でやってきて追加オーダーはせずに会計を済ませる。今、そうした「ちょい飲み」が広がる背景には、何よりもまず消費者を取り巻く厳しい経済状況があります。

 株価高騰で好景気に見えますが、現実に起きているのは「実質賃金の激減」です。物価上昇によって事実上前年比3~4%も給料が減っている状況で、戦後最悪のレベルです。そうした中で真っ先に削られるのはお父さんの小遣い。タクシーでは帰れないから飲む時間は短くなり、駅の近くで1~2杯だけ飲むスタイルが広がっています。

 興味深いのはそのニーズを居酒屋よりも、餃子の王将や吉野家などのチェーンが掴んでいることです。

 外食チェーンはここ数年の壮絶な値下げ競争で疲弊し、「消耗戦の先に未来はない」と気付きました。これ以上の安売り競争は難しいが、高級路線に転換しようにも消費者はない袖は振れない。そこで、居酒屋に流れていた層に「うちならもっと安く美味しく飲める」とアピールし、成功しているのです。

 餃子の王将や吉野家はもともと食事をする店だから、料理には自信を持っている。しかもチャージ料金を取らないから安くあがります。

 長居するつくりにしていないので回転率は高い。回転率が高ければ売り上げが立つので、材料の質を落とさない、より安いつまみを提供する、といった試みが可能になり、消費者にはそれがまた嬉しい。そんなサイクルができています。

 学生を連れてこうした外食チェーン店に飲みに行くことがあります。彼らは「そこそこの品質のものを安く食べられれば満足」という考え方です。

 社会学者の古市憲寿さんが2011年に『絶望の国の幸福な若者たち』に書いたそのままの価値観で、哀れな印象は全くありません。このスタイルは今後もっと広がるでしょう。だからこそ、各チェーンはサービスに注力します。消費者がそれを楽しまない手はありません。

撮影■岩本朗

※週刊ポスト2014年11月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン