〈誰もが心や人間性が大事だという。体の相性で結婚相手を選ぶなんて話は知らないし聞いたことがない〉
だから塔子は真と結婚した。それでも躰は鞍田を求め、自分の意外な大胆さにたじろぐばかりだ。〈腰を動かされるたびに新しい自分を引きずり出される〉〈私はとうとう、しがみついて言った〉〈「好き」〉〈快感が先に来て、それによって身体から引きずり出される言葉だなんて知らなかった〉
「結局、心と体のどちらに正直になればいいか、誰も教えてくれないんですよね。実はこの結末も構想は3パターンあって、迷った末に私ならどうするかで決めました。彼女は夫でも世間でもなく、自分自身と闘っていたと思うので、鞍田や夫とどうなるかよりは、異性の評価やイイ妻・イイ母親というモデルから自立して、もう一度自分の人生を自分で決定することが重要でした。特に女性は一つ不満を埋めるとまた別の不満が必ず顔を出すので、そこは男性よりずっと貪欲」
〈男の人は、千年経っても、男じゃないですか〉と塔子は言うが、女も何年経とうが女だった。その事実に傷つき、揺れ続けた女たちの一つの答えが本作とすれば、それを男たちがどう読むかも、なかなかに興味深い。
【著者プロフィール】
島本理生(しまもと・りお):1983年東京生まれ。立教大学文学部中退。都立高校在学中の2001年、第44回群像文学新人賞優秀賞受賞作『シルエット』でデビュー。2003年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞、芥川賞候補に。
著書は他に『ナラタージュ』『アンダースタンド・メイビー』等。2006年作家・佐藤友哉氏と結婚、その後離婚し2010年に同氏と再婚、3年前に第一子を出産。「結局、自分が安定しないと夫婦関係も安定しないと分かりました」。156cm、A型。
●構成/橋本紀子
※週刊ポスト2014年11月28日号