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林真理子氏 新作で「ねっとりした大人の小説書きたかった」

【話題の著者に  訊きました!】
『大原御幸 帯に生きた家族の物語』/林真理子さん/講談社/1512円

 着物の黄金時代を生きた京都・室町の「天才帯屋」の波乱に富んだ生涯を、1人娘とその夫の目から、濃密な人間ドラマとして描きだした。

「瀬戸内寂聴先生から『知り合いの帯屋さんがお父さんのことを書いてほしい、と言ってるんだけど』と紹介されまして。『私はもう年だから、真理子さん書いてくれない?』って。寂聴先生は、私が着物好きというのもご存じですから」(林さん・以下同)

 小説のモデルは若松華瑤(1895~1974)。古典柄を大胆にアレンジして生かす天才図案家である一方、非常に頭が切れ、戦前は東条英機首相の私設秘書をつとめた異色の経歴の持ち主である。一代で財をなし、京都・大原の3000坪の敷地に広壮な邸を構えていた。

 彼の長女に、林さんは何度も会い、話を聞いた。小説では、父「松谷鏡水」の一代記を自費出版したいと1人娘の祥子に依頼されたフリーライターが、祥子と祥子の夫の新垣に取材するという設定で、2人の口から思い思いに鏡水の人生を語らせる。

「雑誌に連載が始まると、『こんなこと、言うてへんのに』と娘さんのご機嫌が悪くなることもありました。話は聞かせてほしい、貴重な資料は読みたい、だけどいいことばかりは書きたくない。実在の人物を書くとき、作家はそのせめぎあいです」

 父に溺愛され贅沢に育てられた祥子は、離婚したあと、好きな舞踊の道に進む。藤間流宗家に弟子入り、妻の藤間紫らとも知り合って、父の支援で豪華なリサイタルを開く。そんな祥子に一目ぼれし、妻子と別れて一緒になる新垣のモデルが、元阪神タイガースの人気選手、野球好きならだれでも名前を知っている土井垣武(1921~1999)だ。

「単なるサクセスストーリーを書いてもつまらない。彼の目から見たこの家の不思議さも書いてみよう、と。彼はすでに亡くなっていますから、奥さんやお嬢さん、昔のチームメイトの話を聞いたうえで想像で書いています」

 一家の物語を光で照らすのが祥子なら、新垣は影を際立たせる。戦争中の食糧難の時代にも、祥子が何不自由なく白い米を食べていたことを知って新垣は驚く。昭和も50年代に入ると、着物を着る人も減り、松谷家のビジネスは難しくなっていく。祥子が崇拝する鏡水が精魂込めた能装束百点を叩き売った、新垣の真意はどこにあったのか――。

「寂聴先生のモデル小説や、宮尾登美子さんの『きのね』『一絃の琴』のようなねっとりした大人の小説が大好きなんです。女の人が熱狂するああいう小説を読みたい、私なりに書いてみたい、と思って書いたのがこの小説です」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2014年12月11日号

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